Moonshine+

個人的に好きな曲たちについて書いています。

橘いずみ 「上海バンドネオン」

個人的な話ですが、1980年代はほぼ洋楽を聴いていました。アメリカのヒットチャートもフォローしていましたが、1990年代に入るとアメリカのヒットチャートには好みの曲が少なくなってきたので、そのかわりにJ-POPの流行りの曲も聴くようになりました。

その頃は、サブスクなど無いので、FMラジオから流れる音楽が情報源で、気に入った曲や流行りだから聴いてみようといった曲をエアチェック(死語)してMD(これも死語)に録音していました。その後、MDも処分するようになった際に、せっかく録音したのでそのエアチェックした音源(MD9枚分)をPCに保存していたのですが、先日ふと思いついてそれらの音源を聴いてみました。

まあ、何でこんなん録音したんかなというのも結構あったんですけど、そんな中でインパクトが強かったのがこの曲。橘いずみさんの1994年のシングル「上海バンドネオン」です。アルバム こぼれおちるもの の1曲目に収録されています。

橘いずみ / こぼれおちるもの

橘いずみさんの歌は、メッセージ性の強い歌詞をロックスタイルで表現するというイメージなのですが、この曲はメッセージソングというのではなく、反復するメロディとダンサブルなリズムに乗せて韻を踏んだ歌詞を羅列していくという形がユニークで、なおかつかっこいいです。ヴォーカルが全編多重録音になっているのも面白いです。

 

YouTubeにはオフィシャル音源がなかったのでご参考までに。

https://www.youtube.com/watch?v=il3HTnbY8-E

Manfred Mann's Earth Band 「Runner」

南アフリカ出身のキーボード奏者 Manfred Mann 率いるロックバンド、Manfred Mann's Earth Band (以下、MMEB)の1984年のヒット曲がこの「Runner」。ちょうど1984年のロサンゼルスオリンピックの開催時期をターゲットにリリースしたようで、ビデオクリップも陸上競技の映像が使用されました。

MMEBの最大のヒット曲は1977年の「Blinded By The Light」なのですが、この曲はBruce Springsteenの1st アルバムに収録された曲のカバーです。そして「Runner」もカナダのシンガーソングライター Ian Thomas の曲のカバーだそうです(最近知りました・・・)。

私はMMEBのことをあんまり知らないのですが、この曲「Runner」は印象に残っていました。何が印象的だったかというと、ギターソロの部分が前年アルバム 90125 で復活したYesのTrevor Rabinのギターサウンドによく似ていたということです。当時は、ヒットしたYesサウンドにあやかって真似たのかなとずっと思っていましたが、実はRabin本人がギターソロを弾いていたんですね。これも最近知りました(失礼しました!)。

 

ちなみにこの曲、リリース時にはUS盤のLPレコードでのアルバム Somewhere In Afrika に収録されていましたが、現在は1986年のアルバム Criminal Tango のCDのボーナストラックとなっているようです。

当時のシングル盤はこんなジャケットだったそうです。

 

音源はこちらからどうぞ。Trevor Rabinのギターソロは2分25秒あたりから。

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ちなみにこちらがビデオクリップです。音はモノラルになってます。

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キーボードソロがある曲(その7):Godiego 「銀河鉄道999」

Godiegoゴダイゴ)は1980年前後の時期に日本で大人気でした。「ガンダーラ」でブレイクしてしばらくはTVの歌番組の常連だったと記憶しています。バンドのキーボード担当はリーダーのミッキー吉野さん。ゴダイゴの曲の編曲のほとんどを手掛けています。

この曲はアニメ映画「銀河鉄道999」のテーマ曲として制作されたもので、映画のヒットと同様この曲も大ヒットしました。

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この曲でミッキー吉野さんは、ピアノとオルガンを演奏しているようですが、ソロの部分はハモンドオルガンです。15秒程度の短い時間でわかりやすいメロディのソロを演奏しています。ソロの最後のグリッサンドも定番ですね。改めて聴くと、この曲ではピアノとオルガンどちらでもグリッサンドを入れまくってます。

Hooters 「Karla with a K」

Hootersは1980年代中盤から後半にかけて人気があったアメリカのロックバンドで、マンドリンアコーディオンなどの普通のロックバンドでは使わないトラディショナルな楽器をフィーチャーしたサウンドが特徴でした。

「Karla with a K」が収録された1987年のアルバム One Way Home は、前作からよりアメリカのルーツ音楽に近づいた作品です。

Hooters / One Way Home

この曲のイントロは、アコーディオンマンドリンのユニゾンによる演奏から始まり、途中からリコーダー、ベース&ドラムが加わり歌が始まるまで約75秒(長っ!)、アメリカ南部のケイジャン音楽に影響を受けたフレーズが印象的な曲です。個人的にも大のお気に入りです。

この曲のビデオクリップはライブ演奏の模様がフィーチャーされていて、当時の人気がうかがえる映像となっていますね。ちなみにアコーディオンはRob Hyman、マンドリン(ライブ映像では、マンドリンとギターのダブルネック仕様のもの)はEric Bazillianが演奏しています。

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スタジオ録音の音源はこちら。

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ところで、この曲のタイトル「Karla with a K」ってどう意味なんだろうと思っていました(思っていながら35年間放置してたのですが・・・)。ネットで調べてもこれといった答えが見つからなかったのですが、このビデオクリップの冒頭でEric Bazillianが "This is a song about hurricane !"と言っていることから、ハリケーンについて調べてみたらこんなことが分かりました。

ハリケーンには名前が付けられていて、毎年アルファベット順で人の名前(以前は女性の名前だったが、現在は年ごとに男性、女性の名前を交互につけるルール)をつけることになっています。

ja.wikipedia.org

で、過去にKarlaという名前のハリケーンがあったかどうかまでは分かりませんでしたが、1961年にアメリカ南東部を襲った猛烈なハリケーンの名前が"Karla"ではなく"Carla"だったそうです。たぶんアメリカ南東部の住民である歌の主人公は、このハリケーン"Carla"が記憶に残っていて、これと歌の中に出てくる主人公の彼女の名前 "Karla"を重ね合わせたのだと思っています。つまり「Karla with a K」というのは「Kで始まるハリケーンの"Karla"」という意味なのかなと。

Miranda Lee Richards 「Oh, Raven」

前回の記事で取り上げたTilehouse Studioのことを調べていたら、YouTubeでこの動画を見つけました。

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私は、彼女の歌を聴いたのは初めてですが、Miranda Lee Richardsは、サンフランシスコ出身のシンガーソングライターで、2001年のデビューアルバム The Herethereafter がヒットしたそうです。その後はアルバムリリースの機会にあまり恵まれず、2017年にようやく4作目 Existential Beast を発表しています。

Miranda Lee Richards / Existential Beast

このアルバム、そして過去の作品をちょっとずつ聴いてみたのですが、彼女の曲はカントリーやフォークミュージックがベースで、そこに1970年前後のサイケデリックサウンド風味が味付けされているという印象で、これがMirandaの作品の特徴のように思います。曲によってはドリームポップのようなものもあったりして、サウンド的には結構面白いです。また、このアルバムの最後には12分、7コーラスに及ぶ(当時のトランプ政権への)政治批判の曲「Another World」も収録されています。

このアルバムに収録されている「Oh, Raven」も、上記の「Another World」に通じるテーマの歌ですが、アイリッシュトラッドを思わせるような美しいメロディーが印象的な3拍子の曲です。最初に紹介した Tilehouse Studioでのバンドスタイルでのライブ演奏と異なり、スタジオ録音版はドラム無しのアコースティックギター主体の演奏で、ベースとグロッケンシュピーエルとストリングスによる最小限のアレンジになっています。後半部では、これも控えめにメロトロンの音色が聴こえます。

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ちなみに、アメリカ西海岸で活動するMirandaがロンドンのスタジオで演奏したのか、というところまでは分かりませんでしたが、彼女の作る音楽がTilehouse Studioのようなアナログ機器での録音スタイルに合っているのは確かかなぁと思います。

Gypsyfingers 「The Waves」

Mike Oldfieldがアルバム Five Miles Out を録音したスタジオは、ロンドン中心部から北西へ車で1時間ほど行ったDenham(デナム)という場所に位置しています。このスタジオはMike Oldfield専用のレコーディングスタジオとして1981年に創設され、現在はそばを通る小道の名称にちなんで「Tilehouse Studio」という名前になっていますが、現在、このスタジオを管理・運営しているのは、Mike Oldfieldの3人目の子供のLuke Oldfieldです。

Google Mapより引用

 

このTilehouse Studioを、Luke Oldfield自身が紹介(宣伝?)している動画がYouTubeにアップされています。

アナログ方式専門のレコーディングスタジオというのが売りみたいです。動画の中ではアコースティック楽器とヴィンテージ楽器が多数置いてあるのが見れます。父親のMike Oldfieldは最新のデジタル楽器や録音機器を進んで取り入れていったのですが、それとは正反対のアナログ専門というところに、彼なりのこだわりを感じますね。

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Luke Oldfieldは、Tilehouse Studioのレコーディングエンジニアであるとともにミュージシャン(父親と同様にギタリスト)でもあり、現在は、キーボード奏者でヴォーカリストのVictoria Coghlanとユニット "Gypsyfingers" を結成して音楽活動をしています。

 

Gypsyfingersの音楽は、自己のバイオで「psychedelic & cinematic folk-rock band」として紹介している通り、ドリーミーなフォークロックを指向しています。流行りのサウンドとはかけ離れているので一般受けするものではないですが、ちょっと懐かしい感じのする独創的なポップスだと思います。

アルバムはこれまで2作発表されていて、2018年の Stranger Things が現時点では最新のアルバムとなっています。

Gypsyfingers / Stranger Things

収録曲の多くはVictoria Coghlanの作品で、リードヴォーカルも彼女が担当していて、これがこのユニットの個性となっています。彼女のヴォーカルはクラシカルで透き通った歌声で、伝統的なブリティッシュフォークシンガーの流れを汲んだスタイルだと思います。サウンド面はプロデュース兼エンジニアのLuke Oldfieldの手腕によるところが大きいと思いますが、Victroiaの曲やヴォーカルに沿った形の、1970年代のブリティッシュフォークロックの色合いが濃いものとなっています。Lukeは、演奏面では主にギタリストの役割を担っていて、一部自身作の曲ではリードヴォーカルも取っています。

 

アルバム収録の曲「The Waves」のMVです。

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アルバムのカバ―アートにもあった動物のマスクをかぶった登場人物の映像とともに、Gypsyfingersの演奏シーンを見ることができますが、ライブではベーシストとドラマーを加えた四人編成で演奏しているようです。バンド編成の演奏にストリングス系のサウンドが添えられた形のシンプルな曲で、Victoria Coghlanの美しいヴォーカルが際立っています。Luke Oldfieldはアコギとエレキギターを使い分けていて、後半ではエレキギターでのソロを聴くことができます。ちなみにドラマーの右後ろに置いてある鍵盤はスタジオにも置いてあったメロトロンですね。

 

ブリティッシュフォークの女性ヴォーカルが好き、という人へはおすすめできる作品です。

Mike Oldfield アルバム紹介 その7:Five Miles Out

1980年代初期、Mike Oldfieldはヨーロッパ各地でコンサートを精力的に実施していましたが、アルバム QE2 発表後に行われた「Europian Adventure」ツアーでは、以前より参加ミュージシャンを減らして、コンパクトなバンドスタイルでのコンサートを行っていました。そしてこのバンド<Mike Oldfield Group>によって制作されたアルバムが、Five Miles Out です。

 

Mike Oldfield / Five Miles Out

  Taurus II
  Family Man
  Orabidoo
  Mount Teidi
  Five Miles Out

 

Mike Oldfield Group is;

  • Mike Oldfield: Guitars, Bass, Keyboards, Vocals
  • Maggie Reilly: Vocals
  • Rick Fenn: Guitars
  • Tim Cross: Keyboards
  • Morris Pert: Percussion, Keyboards
  • Mike Frye: Percussion

アルバムは、まずタイトルトラックの「Five Miles Out」から制作され、この曲のアイディアを発展させた形で、1曲目の大作「Taurus II」が制作されたようです。

この25分に及ぶ「Taurus II」は、フォークミュージックをベースとした初期の作品とは風合いは異なりますが、傑作と言っていい作品になっていると思います。ロックのフォーマットを基盤としながらも、イーリアンパイプ(バグパイプの一種)などの演奏によるケルティックな要素や、ヴォコーダーやシンセシーケンス等のエレクトロニックな要素、そしてクラシカルな要素を効果的に配して織り上げられたロックシンフォニーとなっていて、骨太でパワフルだけどカラフルな音楽です。

アナログ盤は見開きジャケットとなっていて、内側にはOldfield手書きの24chのトラックシートが掲載されていて、これを見ながら曲の展開を追っていくことができました。(残念ながらCDでは再現されていないようです。)

このトラックシートで、"MAG"と書かれたパートは、Maggie Reillyのヴォーカルパートになっていて、8分30秒付近から約1分半にわたってソロの歌唱を聴くことができます。(「The Deep Deep Sound」と名付けられた歌詞が掲載されています。)

また、6分15秒ころから始まるイーリアンパイプの演奏はアイリッシュフォークグループ ChieftainsのPaddy Moloneyによるもので、トラックシートには"MOLONY"と記載されています。Moloneyはアルバム Ommadawnでもイーリアンパイプの演奏を披露していました。

その他、アルバムジャケットには記載されていませんが、OldfieldはこのアルバムからFairlight CMIを使用しているようで、このトラックシートにもFairlightの音色ライブラリの名称である"LOSTRE"、"SWANEE"、"Whisp"などの名前をみることができます。

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2曲目(アナログ盤ではSide 2の1曲目)「Family Man」は、Maggie Reillyをリードヴォーカルとしたポップソングで、同じ年にアメリカのDaryl Hall & John Oatesによるカバーバージョンがヒットしました。ちなみにこの曲はバンドメンバーの共作となっていて、Rick Fennがギターリフを書き、Oldfieldはサビの部分、Maggie ReillyとTim Crossがサビ以外の部分を手掛けたらしいです。共作であるとはいえ、Oldfieldがポップソングの分野でヒット曲を書ける実力を示した曲だといえるでしょう。

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次の曲「Orabidoo」は13分ある長い曲で、Taurus IIとは異なりアコースティックなムードが濃い曲となっています。中間部はヴォコーダーとReillyのヴォーカルをフィーチャーしたパートになっていて、それぞれをいくつかのトラックに分割して、定位を変えたミックスを行っているのが実験的です。10分50秒過ぎからはOldfieldのアコースティックギターにのせてReillyの美しい「Ireland's Eye」という歌で締めくくります。この曲もバンドメンバーによる共作になっています。

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続く「Mout Teidi」はEmerson, Lake & PalmerのCarl Palmerのパーカッションでのゲスト参加で聴かせるインスト曲。テイデ山はモロッコの西に位置するカナリア諸島にある火山の名前で、Palmerの演奏する手数の多いドラムロールが火山の噴火をイメージさせます。

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最後の曲「Five Miles Out」は、アルバムのリリースに先駆けてシングルとして発表された曲で、これもヴォーカル入りのポップソングなのですが、「Orabidoo」同様ヴォーカルの処理が特殊です。ヴォーカルはReillyに加え、Oldfield自身も歌っており、さらにヴォコーダーのパートとを切り絵のように組み合わす形で構成されており、普通のポップソングとはちょっと違うアプローチになっています。パワフルなギター演奏もカッコイイです。ちなみにこの曲のイントロ部でちらっと聴こえるシンセストリングスによるメロディは、Oldfieldのデビュー作 Tubular Bells の導入部のあのメロディです。

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ちなみにこのアルバムは、当時Oldfieldが所有していたDenhamにあるスタジオで録音されたとのことで、次作 Crises でも同じスタジオで録音されています。アルバムジャケットの内側には、スタジオの一室でOldfieldが多くの楽器と模型飛行機たちとともにいるスナップ写真が収められています。

(向かって左側のモニターが乗っている楽器がFairlight CMIですね)