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Mike Oldfield アルバム紹介 その4:Incantations

Incantations(邦題:呪文)は、1978年に発表されたMike Oldfieldの4th アルバムで、発売当時はアナログ盤2枚組で発売されたトータル70分越えの大作です。

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Mike Oldfield / Incantations

(上がオリジナルジャケット、下が2011年リマスター盤のもの)

2011年リマスター盤のブックレットに当時のエピソードが記載されているのですが、これによれば、前作の Ommadawn 発表後、Oldfieldは自宅兼録音スタジオを建設し、1977年春ごろから新作の制作に取り掛かったようです。ところがちょうどイギリスではパンクムーヴメントが盛んになった時期で、パンクの代名詞ともいえるSex Pistolsが自分と同じVirgin Recordsと契約して、Oldfieldが作る長大な音楽は古臭いとレコード会社からも言われる状況になったことが原因で、以前から彼を苦しめていたパニック障害が再発し、アルバム制作が続けられなくなったようです。しかし、知人の紹介でとあるセラピーを受けることになり、これによって病魔を克服してアルバムを完成させたとのこと。

このことが作品にも影響を及ぼしているのは明らかで、アルバムのフォーマットは過去3作と同様に、アナログ盤の片面に1曲のみの全4曲という構成ですが、これまでは夢の中を漂うような作風だったのが、本作ではより整然として、音楽的なチャレンジを試みた前向きなサウンドに変化しています。

Part 1

複雑な変拍子のフレーズを奏でるストリングスセクションとフルート、そしてOldfieldのギターによるアンサンブルが見事な導入部に続き、パーカッションとシンセサイザーのセクションを挟み、女性コーラスが印象的なメロディーを歌い上げるセクションが5分ほど続き、その後再びストリングスとフルートが導入部のフレーズを変奏して終ります。

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Part 2

ここでの主役は、ブリティッシュフォークバンドSteeleye SpanのMaddy Priorによる歌唱、そしてOmmadawnでも起用されたJabulaによるアフリカンドラムです。冒頭の7分間は上昇下降を繰り返すシンセシーケンスに乗せてシンセによるメロディが演奏され、その後Part 1で提示された女性コーラスのメロディがアレンジされて現れたあと、アフリカンドラムの演奏が始まり、複数のマリンバによるフレーズを伴奏にMaddy Priorの独唱が約7分間に渡って続きフェードアウトしていきます。ここで歌われているのはアメリカの詩人Longfellowによるアメリカンインディアンの英雄を謳った「The Song of Hiawatha」という詩の一部とのことです。

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Part 3

Part 3ではOldfieldのエレクトリックギターが大きくフィーチャーされます。前半はオーケストラのダイナミックな演奏とともに、中間部はパーカッションをバックに、そして後半はロックバンドスタイルの演奏とともにギターが響き渡ります。ただ、個人的にはPart 3は若干繰り返しが多くてくどい印象があります。本作の後に発表されたライブアルバム Exposed では、このPart 3部分は短時間であっさりまとめられているので、ちょっと水増ししたのかも知れません。

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Part 4

このパートでは、前半のPierre Moerlenによるヴィブラフォンの演奏が印象的。Part 1の冒頭で提示されたメロディを2台のヴィブラフォンでなぞっていくのですが、定位を左右に振って交互に音が鳴るような演奏をしているため、ヘッドフォンで聴いていると頭がクラクラします。8分過ぎからOldfieldのギターが入ってくると10分の手前にかけて一気にクライマックスに向かい、シンセのフレーズにスパッと場面転換します。個人的にはここがアルバムの中で一番好きな部分です。そしてもう一度クライマックスに向かって盛り上がりエンディング、と思わせておいて、最後の5分間はマリンバの演奏から始まり徐々に楽器を増やしていくTubular Bells Part 1のエンディングの手法を使い、最後の最後は再びMaddy Priorによる歌で感動的に締めくくります。

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・・・ちょっと書きすぎましたが、約73分間の中に数多くの魅力的な要素が詰め込まれた力作と言って間違いありません。惜しいのは少々冗長な部分がある点でしょうか。個人的にPart 1とPart 4がおススメです。

ちなみに上記YouTubeのPart 4の音源で、注意深く聴くと12:40あたりで微妙にテンポがずれている箇所があるのですが、これは2011年のリマスター時のミスによるもので、2011年リマスター版の初版では12:37あたりに大きな音飛びがあり、その音飛びは修正されたはずだったのですが、今度は別の個所に音ズレが出ている状態になっているみたいです・・・。