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Mike Oldfield アルバム紹介 その8:Crises

アルバム Tubular Bells でのデビューから10年を迎えた1983年に、Mike Oldfieldがリリースしたアルバムがこの Crises です。

Mike Oldfield / Crises

 Crises
 Moonlight Shadow
 In High Places
 Foreign Affair
 Taurus 3
 Shadow On The Wall

前作 Five Miles Out と同様にSide 1に大作1曲、Side 2に小品を並べたスタイルのこのアルバムは、共同プロデューサーとしてロック・フュージョン界のセッションドラマーであるSimon Phillipsを迎えたことで、より洗練されたサウンドのアルバムとなりました。

サウンド面での変化としては、Phillipsのドラム以外では

  • ヴォコーダーの使用を止め、肉声のヴォーカルをフィーチャーするようになった。
  • Fairlight CMIが多用されるようになった。
  • 一部でバンドメンバーの参加はあるものの、Oldfield自身が演奏するパートが増えた。
  • ケルティックサウンドが控えめになった。

といったところが挙げられると思います。

Side 1で展開される21分の大作「Crises」は、いくつかのモチーフで構成される組曲形式になっていて、前作の「Taurus II」のような統一感にやや欠ける面はありますが、流れるような展開は聴いていて気持ちいいです。

最初に奏でられるフレーズは、Tubular Bells の導入部分の変奏となっていて、10周年ということが多分に意識したものだと思われます。このメロディは後半のクライマックス部にも現れますが、Tubular Bellsとは異なり、爽やかなメロディとなっており、この曲全体の色合いを与えています。

中間部ではハードロックを意識したアップテンポなエイトビートのパートがあり、ここではOldfield自身が歌っています。これは最初聴いたときはちょっと違和感がありましたが今では特に気にならないです。慣れですかねぇ。(ただし、この後のアルバムでは自身が歌うことはほとんど無いので、自己評価はいまいちだったのかも知れません)

この曲のクライマックスは13分ごろから始まります。ディレイのかかったシンセシーケンスにPhillipsのドラムが絡み、導入部のメロディが奏でられると徐々にドラムの手数が多くなり、Oldfieldの独特なエレクトリックギターサウンドとともに盛り上がっていく様は、Ommadawn Part 1のクライマックス部(アフリカンドラムのパート)に似た高揚感が得られます。なんといってもPhillipsのドラミングが圧倒的。最後はベルが1回鳴って締めくくられる至福の8分間です。

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Side 2の1曲目は、Oldfieldの歌モノでは一番有名な「Moonlight Shadow」です。この曲はシングルカットされ、イギリスをはじめとするヨーロッパでスマッシュヒットとなりました。この曲は、ギター、ベース、ドラム(それとFairlight CMI)からなるフォークロック調のサウンドにのせてMaggie Reillyが歌うポップで美しいな曲なのですが、間奏ではOldfieldらしい音色のギターソロを聴くことができます。また、アルバムジャケットのイラストと絶妙にリンクしてこのアルバムの核となる曲であることがわかります。

この曲はビデオクリップも制作されました。当時はMTVなどのビデオクリップを放送する番組が増えたことで、多くのアーティストがビデオを制作するようになっていましたが、この曲のビデオもその流行に沿った形で作られたようです。このビデオで初めてMaggie Reillyの顔を知ったという日本のファンも多かったのではないかと思います。

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続く2曲「In High Places」と「Foreign Affair」は、エレクトロポップを意識したようなサウンドの曲で、それぞれ Yes の Jon Anderson、Maggie Reillyがヴォーカルを務めています。いずれもFairlight CMIによるヴォイス系のパッドサウンドが印象的です。 特に「Foreign Affair」ではギターとベースすら使用されていません。

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前々作、前作から続くTaurusシリーズの曲「Taurus 3」は、Oldfieldのアコースティックの弦楽器とPhillipsのドラムによる多重録音によるインスト曲になっています。短い曲ですが、Oldfieldの卓越したギターテクニックを堪能することができます。

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最後の曲「Shadow On The Wall」は、当時のポーランド独裁政権による戒厳令下における人々に苦しみにインスパイアされた曲で、ヘヴィメタリックなサウンドにのせてRoger Chapmanの絞り出すようなヴォーカルが印象的な曲です。この曲もシングルカットされビデオクリップも作成されました。

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個人的には、このアルバムより前作 Five Miles Out のほうが好きなのですが、ヒット曲「Moonlight Shadow」を収録したアルバムということで、1980年代のOldfieldを紹介するには、まずはこの作品というのが妥当じゃないかと思います。

このアルバムとシングル「Moonlight Shadow」のヒットは、Oldfieldにとってはポップミュージックのフィールドで活躍できるという大きな自信が得られましたが、その一方で、レコード会社からの次のヒット曲を求めるプレッシャーが掛けられるというポップミュージシャンならではの事態に相対することになっていきます。