Mike Oldfieldにとって1984年は自身のミュージシャン人生において一番忙しかった年だったと、アルバム Discovery のリイシュー盤のライナーノーツに記載されています。前年のアルバム Crises とシングル「Moonlight Shadow」の欧州での大ヒットを受け、各地でコンサートツアーを行い、終了後は新作の創作に着手するという、人気ロックアーティストのようなことをこの時期はやっていたようです。さらに、Virgin RecordsのRichard Bransonが、David Puttnamがプロデュースする映画「キリングフィールド」の音楽担当というオファーを持ってきたりということがあり、結果的に1984年にOldfieldは、本作 Discovery と映画「The Killing Fields」のサウンドトラックの2枚のアルバムをリリースすることになりました。
本作のレコーディングは前作までのイギリスの自宅スタジオではなく、スイスのウインターリゾート地であるオロン(Villars-sur-Ollon)にスタジオ兼自宅?を設営して行われました。イギリスの税金対策だったという話もありますが、移住してスタジオを新たに作るというのはよっぽど金持ちだったんだなぁと思います。ま、それはさておき・・・
Mike Oldfield / Discovery
To France
Poison Arrows
Crystal Gazing
Tricks of The Light
Discovery
Talk About Your Life
Saved By A Bell
The Lake
収録された8曲中7曲がヴォーカル曲ということで、前作でのシングルヒットで本人も気を良くしたか、レコード会社のプレッシャーがあったか、その両方のような気もしますが、Oldfield初めての歌モノメインのアルバムとなりました。
参加ミュージシャンは、前作でも絶大な存在感をみせたドラマーのSimon Phillipsと2人のシンガー、Maggie ReillyとBarry Palmer のみで、前作までのような多くのセッションミュージシャンを起用することは止めています。たぶん、Oldfield自身はバンドスタイルでの活動は苦手だったんだろうなと想像しています。(他のメンバーを上手く調整するのが嫌いなタイプ?)
一方でSimon Phillipsには絶大な信頼を寄せていたようで、本作でもプロデュースとエンジニアリングを共同で行っています。
収録曲についてですが、アナログレコードのSide 1にあたる1曲目「To France」から5曲目「Discovery」までがシームレスにつながって、まるで全体で1曲のような雰囲気を持っています。個人的にはぜひ通しで聴いてもらうことをおススメします。3曲目、4曲目、5曲目はいずれもスネアドラムから始まりますが、前の曲の終わり部分とのタイミングが絶妙、というところがポイントですかね。
1曲目「To France」と3曲目「Crystal Gazing」はMaggie Reillyが、2曲目「Poison Arrows」と5曲目「Discovery」はBarry Palmerがそれぞれリードヴォーカルを担当、4曲目「Trickes Of The Light」はReillyとPalmerが分担してヴォーカルを担当しています。2人が一緒にレコーディングすることはなく、別々に録音したトラックをOldfieldがミックスしたもののようです。
1曲目の「To France」はヨーロッパで大ヒットした曲で、「Moonlight Shadow」に次いで有名なOldfieldの歌モノです。ギターとドラムとフェアライトCMIだけで作ったと思われるサウンドで、フェアライトCMI独特の曇ったようなサウンドが、ヨーロッパの深い森に迷い込んだような幻想的な曲となっています。
2曲目「Poison Arrows」も1曲目の雰囲気を引き継いだようなサウンド、
3曲目「Crystal Gazing」では2曲目で使用されたシンセベースを引き継いでいます。
4曲目「Tricks of The Light」は一転明るめなロックンロールナンバー。間奏部のギターソロがなんかほのぼのしていて楽しげです。
Side 1 最後の「Discovery」は重厚なヘヴィメタリックな曲。ここでのOldfieldのギターソロは掛け値無くカッコイイです。
Side 2の1曲目「Talk About Your Life」はReillyの美しいヴォーカルが堪能できるナンバー。曲中「To France」のフレーズが再度現れます。
続く「Saved By A Bell」はPalmerが歌い上げるドラマチックな曲。
アルバム最後の曲「The Lake」はインストルメンタル。Oldfieldのスイス滞在中のスキートレッキングの体験を基にした曲らしいです。この"The Lake"というのは、レコーディングスタジオから見渡すことができたジュネーブ湖(レマン湖)のこと。
この曲でもフェアライトCMIのサウンドの印象が強いですが、ヴォーカル曲では控えめだったOldfieldのギターもしっかり主張していて、聴きごたえ十分です。雪山を滑走しながら、そして時々立ち止まりながらスキーをしている風景を想像しながら聴くといいかもしれません。
冒頭にも書いたように、Oldfieldはこの年、映画「The Killing Fields」のサウンドトラックアルバムもリリースしましたが、これについてはまた次回。