Mike Oldfield 1990年のアルバム Amarok、この作品を彼の最高傑作と呼ぶ人もいます。もちろん作品として客観的にみたときにはそう言えるかも知れませんし、個人的にも大好きな作品なのですが、本作と次のアルバム Heaven's Open は、一連のMike Oldfieldの作品群の中では異色作だと思います。特に本作の場合、Oldfieldがアルバム Platinum 以降続けてきたビジネスとしての音楽活動とは一線を画した、別次元の作品になっていることは間違いありません。
Mike Oldfield / Amarok
ゲール語からとったと云われるタイトル、Oldfieldのポートレイトを使ったジャケット、アルバム Ommadawn に参加したシンガー、ミュージシャンが数多く起用されていること、シーケンサーを使わない生楽器によるレコーディングが主であることなどから、「Ommadawn」の続編と言われることも多いのですが、曲の内容はOldfieldの初期3作(Tubular Bells、Hergest Ridge、Ommadawn)とはかなりイメージが異なります。初期のレコーディング手法に立ち返りつつも、1990年時点でのOldfield自身の音楽的スキルを詰め込んだ作品と言っていいと思います。
Mike Oldfieldのファンサイトである「Tubular.net」には「Amarok Analysis」というページがあって、1曲60分のこの曲「Amarok」が細かく分析されています。
これによると、この曲は50弱の短いパートから構成されているとされています。アルバムのブックレットの背景画像にもOldfieldのメモで各パートの名前が以下のように列挙されています(Tubular.netから転載)。
0:00 Fast Riff Intro
2:32 Intro
5:46 Climax I - 12 Strings
6:18 Soft Bodrhan
7:20 Rachmaninov I
8:35 Soft Bodrhan 2
9:29 Rachmaninov II
9:56 Roses
10:42 Reprise I - Intro
12:45 Scot
13:16 Didlybom
15:00 Mad Bit
15:56 Run In
16:11 Hoover
18:00 Fast Riff
19:57 Lion
21:57 Fast Waltz
23:42 Stop
24:33 Mad Bit 2
24:46 Fast Waltz 2
25:06 Mandolin
26:07 Intermission
26:23 Boat
29:27 Intro Reprise 2
32:07 Big Roses
33:13 Green Green
34:24 Slow Waltz
36:04 Lion Reprise
37:05 Mandolin Reprise
37:47 TV am/Hoover/Scot
39:50 Fast Riff Reprise
42:22 Boat Reprise
43:32 12 Rep / Intro Waltz
44:12 Green Reprise
44:46 Africa I:
44:46 Far Build
48:00 Far Dip
48:46 Pre Climax
49:32 12 Climax
50:24 Climax I
51:00 Africa II:
51:00 Bridge
51:17 Riff
51:34 Boat 3
51:52 Bridge II
52:10 Climax II
54:23 Africa III:
(Amarok AnaysisによればAfrica IIIはさらに以下のサブパートに分割されるとのこと)
54:23 Hello Everyone
55:50 Choir
57:30 Recorder
58:14 Happy
58:44 Finale
本作は、曲が始まって5:46頃から始まる上記で「Climax」と記されているパートのメロディが主題となっており、これにいくつかのメロディとその変奏が絡み合って構成されています。
Oldfieldが演奏する楽器は、ギター、キーボード、笛、打楽器、ヴォコーダー、その他効果音(実際に録音された音)などであり、特にエレクトリックギターのサウンドについては、エフェクターを使って数多くの音色で奏でられており、それがいかにもOldfieldらしい演奏となっていて、Oldfieldのギター演奏が好きなファンには喜ばしい限りです。
曲中登場する女性ヴォーカルは、アルバム Ommadawn にも参加したClodagh SimondsとBridget St. Johnによるもの。バグパイプはPaddy Molony、アフリカンドラムはJulian Bahulaで、こちらもOmmadawn参加メンバーです。
曲の序盤、突然大音量のオーケストラルヒット風(サンプリングではない)の音色が入ったり、ヴォコーダーによる"Happy ?"というSEが入ったりと、聴き手を驚かすようなギミックで、近寄りにくい印象がありますが、これを乗り越えられれば(というか慣れれば)、その後はOldfieldらしいフレーズ、サウンドがどんどん繰り出されてくるのですが、Oldfieldの音楽(というよりもっと細かいフレーズや音色のレベル)のファンであれば納得できるものだと思います。そして45分頃から始まる「Africa I~Africa III」で、あの「Ommadawn Part 1」のエンディングに似たクライマックス感、カタルシス感を味わうことができる作りになっています。これを存分に味わうためには60分間通しで聴く必要があり、制作側もそれを意図してトラック分けをしていないのだと思います。
そういう訳で、このアルバムはMike Oldfieldの代表作として最初に聴くことはお勧めしません。過去の作品を聴いてこないと分からない部分が多いという理由もありますが、これがMike Oldfieldの音楽の本質かといわれるとそうではない気がするからです。
Oldfieldとしては過去からのVirgin Recordsとの軋轢を推進力にして、音楽的情熱をこのアルバムに注ぎ込んだのではないかと思うくらいの圧倒的なエネルギーを持つアルバムです。
ちなみに曲中48:00過ぎに現れるブラス系のシンセ音がモールス信号となっており、これを解読するとVirgin Recordsの創始者Richard Bransonをディスったメッセージになっていたり、「Africa III」で現れる朗読は、当時イギリスの首相だったMargaret Thatcherの声真似になっているとか、隠しネタは色々あったりしますが、この辺は省略しておきます。