Moonshine+

個人的に好きな曲たちについて書いています。

Mike Oldfield アルバム紹介 その18:Tubular Bells III

このアルバムがリリースされる1年前の1997年、ベスト盤である The Essential Mike Oldfield がWarnerから発売されました。

Mike Oldfield / The Essential Mike Oldfield

このベストアルバムはVirgin Records時代の人気曲とWarner移籍後の主にシングル曲がほぼ半々で収録されたやや中途半端なものだったのですが、驚かされたのは最後のトラックとして収録された曲
「Tubular Bells III (excerpt) from the forthcoming album」
でした。ベスト盤に次作アルバムの曲が収録されるのはちょっとイレギュラーなことですし、さらに驚かされたのはその曲の内容が、過去の彼の作品にはなかったエレクトロニックなダンスミュージックだったことで、当時批判的な評価が多かったと思います。

www.youtube.com

今聴いてみるとそんなに違和感はないのですが、当時は私も、Oldfieldの音楽に求めていたものとはかけ離れたこの曲を聴いて、Tubular Bells III というのは全編こんなダンスミュージックなのかと不安になったものです。

 

Oldfieldが引越しして生活するようになったスペインのイビサ島は、リゾート地というだけではなく、夏にはクラブミュージックのフリークが集まるスポットでもあったため、Oldfield自身もイビサでの生活の中で、このクラブカルチャーに影響されたようで、彼はオリジナルの「Tubular Bells」の全編をテクノ風にアレンジした作品を作ってアルバムにしようと考えていたらしいです。しかしさすがにOldfield自身も、途中でこれは上手くいかないと感じたらしく、ダンサブルな要素を入れつつも、イビサでの生活で感じたことを反映したよりバリエーションのある曲を制作し、これがTubular Bells IIIとして1998年にリリースされることになりました。

CDのブックレットを見ると、レコーディングは最初イビサで行われましたが、1998年の4月からはロンドンに戻って行われたと記載されています。これは、Oldfieldがイビサでの生活を止め、ロンドンに戻ったということを意味しています。イビサでクラブカルチャーに触れることで音楽的な刺激は受けたものの、その他の悪い影響(アルコールやドラッグ)も受けてしまい、結果的にイギリスへ逃げ帰ってきたというのが実態のようです。

ブックレットにはまた、そういったOldfield自身の心情を反映したと思われる「Terrible, Wonderful, Crazy, Perfect」というワードが記載されています。

Mike Oldfield / Tubular Bells III

<トラックリスト>
   1. The Source Of Secrets
   2. The Watchful Eye
   3. Jewel In The Crown
   4. Outcast
   5. Serpent Dream
   6. The Inner Child
   7. Man In The Rain
   8. The Top Of The Morning
   9. Moonwatch
   10. Secrets
   11. Far Above The Clouds

 

1. The Source Of Secrets
風の音と雷鳴のSEで始まり、グラスハープをイメージしたような音色での短いフレーズの後、「Tubular Bells Part 1」導入部のピアノシーケンスをシンプルにしたピアノシーケンスとともにシンセによるダンサブルな音楽が始まります。ここまでは従来のOldfieldでは考えられなかったサウンド、でも途中から入ってくるギターのフレーズは実にOldfieldらしいメロディです。終盤エモーショナルなギターフレーズとともにクライマックスとなる展開はすごくかっこいいです。
この曲でヴォーカルとして参加しているのは Amar というイギリスのインド系の若手女性シンガーです。

www.youtube.com

2. The Watchful Eye
短い曲ですが、「The Source Of Secrets」の冒頭でグラスハープの音色で提示されたメロディが明確に示されていて、このメロディはアルバムの各所に顔を出しています。

www.youtube.com

3. Jewel In The Crown
ドラムループとシンセパッドの上で、Oldfieldのメランコリックなエレクトリックギターが奏でられる曲。後半ではAmarが「The Source Of Secrets」で歌ったフレーズを再度繰り返します。

www.youtube.com

4. Outcast
一転してディストーションが効いたギターがフィーチャーされたロックビートの曲。Tubular Bells II のトラック「Altered States」に似た雰囲気の曲ですが、よりシリアスなイメージです。

www.youtube.com

5. Serpent Dream
「蛇の夢」という意味のタイトルの曲。シリアスなイメージを引き継ぎつつも、Oldfieldのスパニッシュギターの演奏がフィーチャーされた曲で、終盤で再びヘヴィな展開となります。

www.youtube.com

6. The Inner Child
この曲でスキャットを披露しているのは、スペインのトラッドフォークグループ Luar Na Lubre のハープ奏者である Rosa Cedron 。アルバム前半のダークな展開を払拭するような美しくてパワフルなヴォーカルです。最後はアルバム冒頭のグラスハープのメロディで締めくくります。

www.youtube.com

7. Man In The Rain
この曲は、インターミッション的な位置づけとなるOldfield久々の歌モノ。シングルカットもされました。彼の大ヒット曲「Moonlight Shadow」を強く意識したメロディとアレンジとなっています。ドラムは「Moonlight Shadow」の Simon Phillips の演奏トラックをサンプリングして使用しています。リードヴォーカルを担当しているのは、アイルランド出身のフォークシンガー Cara Dillon (アルバムでのクレジットは「Cara from Polar Star」)。Maggie Reillyに似た透明感のあるチャーミングな歌声です。 

www.youtube.com

8. The Top Of The Morning
ここから後半。美しいピアノのフレーズをベースに徐々に盛り上がっていく曲で、ティンホイッスル風の音色が挿入されケルティックな雰囲気。前作 Voyager の作品群と近いイメージがあります。最後はOldfield得意の上昇下降を繰り返すシンセシーケンスとなって次のトラックに引き継がれます。

www.youtube.com

9. Moonwatch
この曲もピアノのメロディが美しい曲。Tubular Bells II の「Maya Gold」に相当するパートです。この曲もケルティックなフレーズが挿入され、ニューエイジ風ではありますが、後半から登場するエレクトリックギターの演奏は、従来のOldfieldサウンドを彷彿させます。エンディングは再びアルバム冒頭のメロディーが鳴らされて一旦エンディングを迎えます。

www.youtube.com

10. Secrets
「The Source Of Secrets」で提示されたダンストラックが、より凝縮された形でリプライズされます。Amarが歌う歌詞はインドの言葉で「たくさんのトラブル、あなたはどこ?」という意味らしいです。

www.youtube.com

11. Far Above The Clouds
「Secrets」のビートを引き継いだ導入部の後、最後のクライマックスの前に、子供の声での以下のようなナレーションが行われます。
And the man in the rain picked up his bag of secrets, and journeyed up the mountainside, far above the clouds, and nothing was ever heard from him again, except for the sound of Tubular Bells.
「雨の中の男は秘密の鞄を持って、山の向こう、雲の上遥かへと旅立った。そして再び彼のことを聞くことはなかった。チューブラーベルズの響きを除いては」
おそらくこの曲は、イビサからイギリスに戻ってから制作されたのではないかと推察しています。イビサでの様々な思いを持って去っていくOldfield自身のことを言っているように思えてなりません。

最後のクライマックスは圧巻。チューブラーベルの音色の後、「Ommadawn Part 1」のエンディングのアフリカンドラムとOldfieldのエモーショナルなギター、そして最後には「Tubular Bells Part 1」のエンディング部のベースフレーズが入ってきて、再度チューブラーベルが鳴り響く展開は重厚でかつ感動的です。

www.youtube.com

 

というわけでこのアルバム Tubular Bells III は、彼のアルバムの中でも最も荒涼としていてかつエモーショナルな作品だと個人的には思っています。さらに言ってしまうと、これ以降のOldfieldのアルバムで、この作品を越える密度・完成度のものは作れていないと思います。