Moonshine+

個人的に好きな曲たちについて書いています。

Mike Oldfield アルバム紹介 その20:The Millennium Bell

前作 Guitars の制作と並行して進められていたプロジェクトというのが、2000年を迎える記念イベントとして1999年12月31日に行われたベルリンでのライブコンサートでした。このコンサートを視野において制作された作品が、この The Millennium Bell です。

Mike Oldfield / The Millennium Bell

<トラックリスト>
1. Peace On Earth
2. Pacha Mama
3. Santa Maria
4. Sunlight Shining Through Cloud
5. The Doge's Palace
6. Lake Constance
7. Mastermind
8. Broad Sunlit Uplands
9. Liberation
10. Amber Light
11. The Millenniun Bell

この作品は過去2000年の歴史を振り返り、ヨーロッパ人であるOldfieldの視点でピックアップしたエポックメイクな出来事を短い曲にしてこれを集めた作りになっています。そのため、Oldfieldの作品の特徴であるキーとなるフレーズが作品の中で何度も形を変えて登場するといったことはなく、その点で統一感はやや希薄です。

演奏の多くはOldfield自身によるものですが、本作ではクラシカルな合唱を多用したり、曲によってはオーケストラの演奏を取り入れたりと、かなりリッチなサウンドが繰り広げられます。

どちらかというとベルリンのイベント用にあつらえた感がある作品で、「作曲家 Mike Oldfield」というスタンスのアルバムという印象です。個人的には、Oldfieldの感情が込められた作品(前々作の Tubular Bells III などは彼の負の感情が見え隠れする)のほうが好きなので、以前からこの作品に対しては少し距離を置いていましたが、今回改めて全曲聴いてみると、淡白ではあるものの、これはこれで悪くないと思えるようになりました。

 

1. Peace On Earth
西暦の最初の年、つまりイエス・キリスト生誕をテーマにした曲。

www.youtube.com

2. Pacha Mama
ペルーのインカ文明をテーマにした曲。Oldfieldはこの曲のためにペルーを訪れて、アイディアを練ったらしいです。歌詞はインカ時代の言語とのこと("Pacha Mama"とは母なる大地という意味らしい)。ヴォーカリストの一人としてAdiemusのMiriam Stockleyが参加しています。

www.youtube.com

3. Santa Maria
1492年にコロンブスによってアメリカ大陸が発見された際に航海で使用された船の名前が「Santa Maria」号。クラシカルなクワイヤーが大々的にフィーチャーされた雄大なイメージがある曲です。

www.youtube.com

4. Sunlight Shining Through Cloud
歌詞は奴隷貿易に反対する活動を行った牧師 John Newton の詩「Amazing Grace」を引用したもの。アフリカからアメリカへ連れてこられたアフリカの人々がその後自己の文化として育んだゴスペル風のコーラスがフィーチャ―されています。

www.youtube.com

5. The Doge's Palace
四つ打ちのバスドラの上にロンドン・セッション・オーケストラの演奏とクワイヤーが豪華に彩る曲。「Doge's Palace」とはイタリアはヴェネチアにある「ドゥカーレ宮殿」のこと。

www.youtube.com

6. Lake Constance
フルオーケストラによる曲で、Oldfieldはクラシックギターを演奏しています。「Lake Constance」とはスイスとドイツの国境にあるボーデン湖を指しています。この曲では1800年代中期のロマン主義の音楽を参照にしているとのこと。この曲で前半終了という感じです。

www.youtube.com

7. Mastermind
1920年代のギャングが暗躍していた時代のアメリカが舞台となる曲。007風のメロディーのギター演奏が印象的です。Simply Redのメンバーだった日本人ドラマー 屋敷豪太がドラムを担当しています。

www.youtube.com

8. Broad Sunlit Uplands
イギリスのチャーチル首相の演説の一節から引用された(らしい)タイトルのこの曲では、第二次世界大戦の殺伐とした時代をイメージされたもののようです。この曲ではフルオーケストラとOldfieldのピアノによる演奏となっています。

www.youtube.com

9. Liberation
"Liberation"とは「解放」という意味。この曲ではナチスドイツ占領下で書かれたアンネ・フランクの日記の一部分の朗読が行われています。このナレーションはOldfieldとAnita Hegerlandとの間に生まれた娘 Greta (当時アンネ・フランクと同じ年齢)が担当しています。ナレーションの内容は残念ながらヒアリング苦手なので分かりませんでした・・・。

www.youtube.com

10. Amber Light
琥珀色の光」という意味のタイトルのこの曲では、南アフリカアパルトヘイト制度の終焉をテーマにしています。力強いコーラスが印象的です。

www.youtube.com

11. The Millenniun Bell
エレクトロニカ/ダンス風のトラックはイビサのDJ Pippi と共同制作によるもので、その上にこれまでの10曲の中で印象的なフレーズがフラッシュバックのようにダイジェストで流れていく展開となっています。5分30秒付近でベルが1回鳴らされますが、これが「The Millennium Bell」ということなんでしょう(1回しか鳴らないのでBellは単数形)。チューブラーベルの音に低音の鐘の音が重ねられているので、除夜の鐘のように聴こえたりするのは私だけ?
最後はMike Oldfieldらしいエレクトリックギターがかき鳴らされてエンディングを迎えます。

www.youtube.com

 

ちなみに、このアルバムのカバーデザインはごちゃごちゃしすぎかなと思います。ここ数作はBill Smith Studio によるセンスの良いデザインだったのに、本作は別のデザインスタジオが担当したようです。このカバ―アートの残念さも中身の曲の印象をスポイルしているような気がします。