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Mike Oldfield アルバム紹介 その23:Light + Shade

Warner Music Spainとの契約が終了した後、しばらくレコード会社との契約が取れなかった Mike Oldfield ですが、Universal Music 傘下のMercury Records に移籍することとなり制作された初めてのアルバムが、2005年にCD2枚組でリリースされた Light + Shade でした。

Mike Oldfield / Light + Shade

<トラックリスト>
Disc 1 - Light
   01. Angelique
   02. Blackbird
   03. The Gate
   04. First Steps
   05. Closer
   06. Our Father
   07. Rocky
   08. Sunset
   09. Pres De Toi  (Bonus Track)

Disc 2 - Shade
   01. Quicksilver
   02. Resolution
   03. Slipstream
   04. Surfing
   05. Tears of An Angel
   06. Romance
   07. Ringscape
   08. Nightshade
   09. Lakme (Fruity Loops)

Disc 1 (Light) は前々作 Tres Lunas 同様チルアウト系のゆったりしたリズムの曲が多く、一方のDisc 2 (Shade)、ディスク2はそれよりもややアップテンポなダンス系のシーケンスフレーズが活用された曲が多く収録されていますが、そう大きくイメージが異なる感じはしません。打ち込みのリズムトラックとシンセ、そこに彼のギターが控えめに絡むといった感じの、お手軽感が印象として残るような、ややインパクトに欠ける曲が多いです。実際 Tres Lunas のゲームで使用された曲の使いまわしもあったりして、昔からのファンにはあまり評判が良くないアルバムでした。

でも、このような作品になった要因は、当時のOldfield がコンピューター主体の音楽制作に興味があったからいうことなんだと思います。彼は昔から新しい楽器や音楽制作機材が好きで、ヴォコーダー、フェアライト、ギターシンセハードディスクレコーダーなどをいち早く取り込んできたので、それの延長線にあると考えれば納得できる部分ではあります。

そういう観点で、本作の「目玉」はヴァーチャルヴォーカルソフトであるVocaloid と Cantorの使用といえるんじゃないでしょうか。

Vocaloidは、これは今やもう有名なヤマハのソフト。初音ミクの音声ライブラリが発売されたのが2007年で Vocaloid 2対応だったので、Oldfieldが使用したのはそれ以前の初期のVocaloidだったと思われます。使用した音声ライブラリは「Miriam」だったそうで、Adiemusのヴォーカルとして知られる Miriam Stockley のヴォーカルをベースとして制作されたものでした。

一方 Cantor は、VirSyn社が開発したソフトで、Vocaloidとほぼ同時期に初期バージョンがリリースされましたが、Ver.2までリリースした後、開発が終了したようです。

このアルバムでは多くの曲でヴォイスやヴォーカルが挿入されているのですが、これらはOldfield本人の声以外はすべてVocaloidとCantorによるものとなっています。Oldfieldは以降のアルバムではVocaloid類は一切使用していないので、このアルバムはちょっと異色といえると思います。

 

次に収録曲の紹介ですが、このアルバムリリース時に Mike Oldfield のウェブサイトでアルバム収録曲に対する本人コメントが掲載されていました。私はそのときのテキストをPC保存しているのですが、現在このコメントは「Dark Star」という公式ファンサイトに掲載されています。(一部オリジナルのコメントから変更が入っていますが・・・)

www.mikeoldfield.org

 

今回は、このMikeのコメントを和訳したもので各トラックの紹介をしてみます。

 

Disc 1 - Light

Angelique
これは私のシンセのプリセットサウンドの名前だ。
いつものように私は基本的なパーツから曲を構築しはじめたんだが、このトラックのサウンドは天使のように響いたんだ。うまく説明できないんだけどいくつかのノブを回しただけなんだ! 通常、私は3日ごとに1曲を完成させてスタジオからへとへとになって出てくるんだけど、いつも出産しているような気分になるよ。

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Blackbird
ピアノだけの曲を作りたかった。それも自宅スタジオに残ったアコースティック楽器である1928年製のスタインウェイを使って。曲名は私が持っているバイクの名前なんだ。我が家のガレージには高速でとばせるマシンでいっぱいなんだが、ホンダのBlackbirdもそのひとつだ。スローな曲なんだけれど、ちょうどスタンリー・キューブリックが「2001年宇宙の旅」で『美しき青きドナウ』を使ったような手法なんだ。バイクに乗ってスピードを出していくと時間がスローモーションになる感じがする様子を表現してみた。私はスタジオでのテクノロジーから離れて過ごすのが楽しい。休息が必要なんだ、バイクに乗ってね。飛行機の操縦にもトライして免許も取ったんだけどストレスが多くて。バイクはその点リラックスできていいんだ。

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The Gate
私はこのアルバムでVocaloidというヴァーチャルヴォーカルソフトを使用した。生のサウンドにいろんなプラグインを通すことですごくいい感じになるんだ。このタイトルはコーク出身の祖父マイケル・リストンに由来するものなんだ。マイケルはある夜突然行方不明となり、3年後に戻ってきたことを覚えてるんだが、実は第一次世界大戦の間、フランスのイープルで戦っていたことが分かったんだ。そこでは戦後記念碑が建てられたんだが、もしイープルの博物館を訪れたら、この曲の元になっている雰囲気を体験出来るじゃないかな。

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 First Steps
これは私が制作したヴァーチャルリアリティーゲーム「Tres Lunas」からの曲の断片を編集したものなんだ。プレイヤーはゲームをスタートしたとき1本のサボテンの前に立っていて、そこから移動したときにこの音楽が始まるんだ。友人でキーボード奏者のRobyn Smithがこのアレンジを手助けしてくれた。

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Closer
イープルに旅行したときに賛美歌を聴いて、その曲は「Pres de Toi」という曲だということがわかったんだが、とても気に入ったのでそのケルティックバージョンを作ったんだ。でも強力なバグパイプサウンドがどうもフィットしなかったので、その代わりにブルースバージョンに変更したのがこの曲。

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Our Father
これはトレス・ルナスからの曲がオリジナルだ。ちょうどローマ法皇が亡くなられたので、オリジナルの曲を変更し、私の彼の人生への憧れをこの曲に埋め込んだんだ。彼が亡くなっても彼がいなくなったとは感じられず私の意識の中では息づいていたんだ。私にとってはこの曲は彼の生涯と死を象徴しているんだ。

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Rocky
こいつは私の馬の名前なんだ。彼はアラビアン・スタリオンで、いつも私のところへ擦り寄ってくるんだ。もし私が彼を所有しなかったら、きっとやんちゃな馬になるだろうな。

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Sunset
私の2番目のゲーム「Maestro」でプレイヤーが最終レベルに達したときにだけ聴ける曲があるんだが、ここではそれを変奏曲にしてみた。チルアウトの曲を想定していたので「日暮れ」という曲名になったんだ。

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Pres De Toi
これはボーナストラック。「Closer」のコメントにあったケルティックバージョンというのがこれ。

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Disc 2 - Shade

Quicksilver
私にとってはこれはダンスミュージックではなくてダンスビートを使った音楽なんだ。
私はイルカと上昇する気泡の動きで水中の動きを再現しようとしたんだ。私がイビザに住んでいたとき、船の後ろで泳ぐイルカをよく見たんだけど、とても印象的だったんだ。

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Resolution
私が住んでいるチャルフォント・セント・ジャイルズにはキャプテンクックの記念碑がある。私は旅が好きで、スタートレックのカーク船長も好きなんだけど、カーク船長はキャプテン・クック船長をモチーフにしているんだ。そして彼(クック)が南極冒険に行ったときの船の名が「Resolution」というんだ。ということで氷をイメージした曲を作ったんだが、丁度レコーディング中にイラク戦争が勃発したので、そういった要素も集まって曲ができあがったんだ。

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Slipstream
私はFL-Studioに連絡して、彼らのFruityLoopsというソフトのデモソングのひとつを私に作らせてもらえないかと尋ねた。というのは私はそのソフトのリフがとても気に入ったからなんだ。彼らは「ぜひやりましょう」ということになって、この曲はそのリフをベースに制作されたんだ。

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Surfing
Cantorというヴァーチャルヴォーカルに私の声を加えて、ロボットのようなサウンドにミックスして出来上がった曲。

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Tears Of An Angel
この曲のレコーディング中、娘のモリーは悲嘆に暮れていたことが曲名の由来。この時Vocaloidで作業していたんだけど、Vocaloidの声に自分の声をミックスした結果、素晴らしい合唱効果が生まれたと思っている。

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Romance
スパニッシュ・ギターを始める殆どの人が習うこの曲は短調長調の両面を持っている。私はこの曲のダンスバージョンを作ろうとしたんだけど、長調の部分はうまくいかなかったので、その結果「ロマンス」の暗い面に終始した。ラブストーリーがうまくいかなかったとき、カップル達がそれぞれに弁護士を雇うようにね。

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Ringscape
トレス・ルナスからのもうひとつのトラック。鷲がプレイヤーを乗せて砂漠を渡り、トンネルをくだり氷の世界に訪れるシーンで聞ける。Robyn Smithがアレンジを手伝ってくれていい感じで仕上った。

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Nightshade
Christopher von Deylenと私はお互いの作品で仕事をしようと決めて、私は彼のバンド「Schiller」の曲でギターを弾き、彼はこの曲でベースとドラムを演奏した。Robyn Smith'sを除けば、Christopherは唯一のこのアルバムでのゲストで、他はすべて私が演奏したことになる。

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Lakme (Fruity Loops)
こちらはボーナストラック。歌劇の作曲家レオ・ドリーブによるオペラ曲をアレンジしたもの。Fruity Loopsとは、現在FL Studioという名称で販売されているDAW(音楽制作ソフト)の昔の名称です。

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