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Mike Oldfield アルバム紹介 その18:Tubular Bells III

このアルバムがリリースされる1年前の1997年、ベスト盤である The Essential Mike Oldfield がWarnerから発売されました。

Mike Oldfield / The Essential Mike Oldfield

このベストアルバムはVirgin Records時代の人気曲とWarner移籍後の主にシングル曲がほぼ半々で収録されたやや中途半端なものだったのですが、驚かされたのは最後のトラックとして収録された曲
「Tubular Bells III (excerpt) from the forthcoming album」
でした。ベスト盤に次作アルバムの曲が収録されるのはちょっとイレギュラーなことですし、さらに驚かされたのはその曲の内容が、過去の彼の作品にはなかったエレクトロニックなダンスミュージックだったことで、当時批判的な評価が多かったと思います。

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今聴いてみるとそんなに違和感はないのですが、当時は私も、Oldfieldの音楽に求めていたものとはかけ離れたこの曲を聴いて、Tubular Bells III というのは全編こんなダンスミュージックなのかと不安になったものです。

 

Oldfieldが引越しして生活するようになったスペインのイビサ島は、リゾート地というだけではなく、夏にはクラブミュージックのフリークが集まるスポットでもあったため、Oldfield自身もイビサでの生活の中で、このクラブカルチャーに影響されたようで、彼はオリジナルの「Tubular Bells」の全編をテクノ風にアレンジした作品を作ってアルバムにしようと考えていたらしいです。しかしさすがにOldfield自身も、途中でこれは上手くいかないと感じたらしく、ダンサブルな要素を入れつつも、イビサでの生活で感じたことを反映したよりバリエーションのある曲を制作し、これがTubular Bells IIIとして1998年にリリースされることになりました。

CDのブックレットを見ると、レコーディングは最初イビサで行われましたが、1998年の4月からはロンドンに戻って行われたと記載されています。これは、Oldfieldがイビサでの生活を止め、ロンドンに戻ったということを意味しています。イビサでクラブカルチャーに触れることで音楽的な刺激は受けたものの、その他の悪い影響(アルコールやドラッグ)も受けてしまい、結果的にイギリスへ逃げ帰ってきたというのが実態のようです。

ブックレットにはまた、そういったOldfield自身の心情を反映したと思われる「Terrible, Wonderful, Crazy, Perfect」というワードが記載されています。

Mike Oldfield / Tubular Bells III

<トラックリスト>
   1. The Source Of Secrets
   2. The Watchful Eye
   3. Jewel In The Crown
   4. Outcast
   5. Serpent Dream
   6. The Inner Child
   7. Man In The Rain
   8. The Top Of The Morning
   9. Moonwatch
   10. Secrets
   11. Far Above The Clouds

 

1. The Source Of Secrets
風の音と雷鳴のSEで始まり、グラスハープをイメージしたような音色での短いフレーズの後、「Tubular Bells Part 1」導入部のピアノシーケンスをシンプルにしたピアノシーケンスとともにシンセによるダンサブルな音楽が始まります。ここまでは従来のOldfieldでは考えられなかったサウンド、でも途中から入ってくるギターのフレーズは実にOldfieldらしいメロディです。終盤エモーショナルなギターフレーズとともにクライマックスとなる展開はすごくかっこいいです。
この曲でヴォーカルとして参加しているのは Amar というイギリスのインド系の若手女性シンガーです。

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2. The Watchful Eye
短い曲ですが、「The Source Of Secrets」の冒頭でグラスハープの音色で提示されたメロディが明確に示されていて、このメロディはアルバムの各所に顔を出しています。

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3. Jewel In The Crown
ドラムループとシンセパッドの上で、Oldfieldのメランコリックなエレクトリックギターが奏でられる曲。後半ではAmarが「The Source Of Secrets」で歌ったフレーズを再度繰り返します。

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4. Outcast
一転してディストーションが効いたギターがフィーチャーされたロックビートの曲。Tubular Bells II のトラック「Altered States」に似た雰囲気の曲ですが、よりシリアスなイメージです。

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5. Serpent Dream
「蛇の夢」という意味のタイトルの曲。シリアスなイメージを引き継ぎつつも、Oldfieldのスパニッシュギターの演奏がフィーチャーされた曲で、終盤で再びヘヴィな展開となります。

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6. The Inner Child
この曲でスキャットを披露しているのは、スペインのトラッドフォークグループ Luar Na Lubre のハープ奏者である Rosa Cedron 。アルバム前半のダークな展開を払拭するような美しくてパワフルなヴォーカルです。最後はアルバム冒頭のグラスハープのメロディで締めくくります。

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7. Man In The Rain
この曲は、インターミッション的な位置づけとなるOldfield久々の歌モノ。シングルカットもされました。彼の大ヒット曲「Moonlight Shadow」を強く意識したメロディとアレンジとなっています。ドラムは「Moonlight Shadow」の Simon Phillips の演奏トラックをサンプリングして使用しています。リードヴォーカルを担当しているのは、アイルランド出身のフォークシンガー Cara Dillon (アルバムでのクレジットは「Cara from Polar Star」)。Maggie Reillyに似た透明感のあるチャーミングな歌声です。 

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8. The Top Of The Morning
ここから後半。美しいピアノのフレーズをベースに徐々に盛り上がっていく曲で、ティンホイッスル風の音色が挿入されケルティックな雰囲気。前作 Voyager の作品群と近いイメージがあります。最後はOldfield得意の上昇下降を繰り返すシンセシーケンスとなって次のトラックに引き継がれます。

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9. Moonwatch
この曲もピアノのメロディが美しい曲。Tubular Bells II の「Maya Gold」に相当するパートです。この曲もケルティックなフレーズが挿入され、ニューエイジ風ではありますが、後半から登場するエレクトリックギターの演奏は、従来のOldfieldサウンドを彷彿させます。エンディングは再びアルバム冒頭のメロディーが鳴らされて一旦エンディングを迎えます。

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10. Secrets
「The Source Of Secrets」で提示されたダンストラックが、より凝縮された形でリプライズされます。Amarが歌う歌詞はインドの言葉で「たくさんのトラブル、あなたはどこ?」という意味らしいです。

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11. Far Above The Clouds
「Secrets」のビートを引き継いだ導入部の後、最後のクライマックスの前に、子供の声での以下のようなナレーションが行われます。
And the man in the rain picked up his bag of secrets, and journeyed up the mountainside, far above the clouds, and nothing was ever heard from him again, except for the sound of Tubular Bells.
「雨の中の男は秘密の鞄を持って、山の向こう、雲の上遥かへと旅立った。そして再び彼のことを聞くことはなかった。チューブラーベルズの響きを除いては」
おそらくこの曲は、イビサからイギリスに戻ってから制作されたのではないかと推察しています。イビサでの様々な思いを持って去っていくOldfield自身のことを言っているように思えてなりません。

最後のクライマックスは圧巻。チューブラーベルの音色の後、「Ommadawn Part 1」のエンディングのアフリカンドラムとOldfieldのエモーショナルなギター、そして最後には「Tubular Bells Part 1」のエンディング部のベースフレーズが入ってきて、再度チューブラーベルが鳴り響く展開は重厚でかつ感動的です。

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というわけでこのアルバム Tubular Bells III は、彼のアルバムの中でも最も荒涼としていてかつエモーショナルな作品だと個人的には思っています。さらに言ってしまうと、これ以降のOldfieldのアルバムで、この作品を越える密度・完成度のものは作れていないと思います。

Weyes Blood 「It's Not Just Me, It's Everybody」

アメリカのシンガーソングライター Natalie Mering によるソロプロジェクト Weyes Blood 。彼女の作品は2019年のアルバム Titanic Rising をサブスクで聴いただけで、ほとんど知識はないのですが、1970年代あたりの懐かしさのある甘いメロディときらびやかなオーケストレーションが印象的でした。新作はいつかなと思っていたら11月18日にアルバム And In The Darkmess, Hearts Aglow が発表されるようで、先行シングル 「It's Not Just Me, It's Everybody」がすでにリリースされていたので早速聴いてみました。 

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メロディそのものはフォーク風のソフトロックなのですが、Natalieの中低音が特徴の声質と、背後で深いリヴァーブがかかったシンセパッドが鳴っているせいでどこかミステリアスなイメージを醸し出しています。

ちなみにこの曲を聴いて思い浮かんだのが Pink Floyd の「Us and Them」と The Alan Parsons Project の「Time」でした。ミドルテンポのエイトビートと浮遊感のあるサウンドが共通しているように思います。

 

ヴィデオクリップも発表されています。一見映画風の映像となっていますが、結構ダークユーモアが効いています・・・。

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Weyes Blood / And In The Darkmess, Hearts Aglow

Yes 「Walls」

現在では誰もが手軽に行うことができるハードディスクレコーディングの先駆けといえる作品が、Yesの1994年のアルバム Talk です。前作 Union でメンバーが8人となったYesでしたが、Steve Howe、Rick Wakeman、Bill Brufordが脱退し、残ったメンバーはアルバム 90125Big Generator を制作した1980年代のYesのメンバーでした。その中で最もYesというバンドの存続にこだわっていたのが、意外にも90125から参加した Trevor Rabin でした。

Rabinは、YesのシンボルとなるのはやはりヴォーカルのJon Andersonだと考え、Andersonにコンタクトを取って、二人のコラボレーションで曲を作ろうと試みました。その時に活用したのがハードディスクレコーディングらしく、Rabinの自宅スタジオで、Mac用のミュージックワークステーションソフトウェア Digital Performer を使って演奏をハードディスクに録音し、Rabin自身で編集、ミキシングなどを行ったようです。(ただし、当時のコンピューターの性能では編集に膨大な時間が掛かったらしいです)

Rabinの並々ならぬ努力によって、当時としては革新的な手法で制作されたアルバム Talk でしたが、セールス的には散々だったようです。確かに収録された曲の多くは重鈍な印象で、当時の流行りの音楽とはかけ離れたものだったことと、従来のYesファンからすると、Rabin色が強く、まるで彼のソロアルバムのように見えてしまい、拒否反応がでてしまったのも敗因だったのかなと思います。

でも個人的にはこのアルバムは嫌いじゃないです。というか、これ以降に制作されたYesのアルバムのどれもこの作品を上回る完成度のものは無いと思っています。

Yes / Talk

 

そんなアルバム Talk の中で最もポップな曲がこの「Walls」です。実はこの曲は、元々 RabinがRoger Hodgson (元Supertramp)と共作した曲で、Yesでは数少ないメンバー以外との共作になっています。ただ共作者のRoger Hodgsonは、Andersonが1980年代後半に Yesを脱退した後の後任としてオファーされていたこともあり、Andersonとしては、この曲をアルバムに入れることに難色を示していたらしいです。でもシングルとして売れる曲をというレコード会社の要請で渋々了承したのではないかと思われます。

曲のヴォーカルは、バッキングも含めてほとんどがRabinによるもので、Andersonは後半の方でちょっと参加しているだけですが、最後の方でオリジナルには無い歌詞を突っ込んで、ちゃかり共作者の一人に名前が入っているところは、ある意味さすがです。

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メロディにHodgsonっぽいところがあって、SupertrampやRoger Hodgsonの作品が好きな私的には好きな曲なんですが、Yesっぽくないといえば確かにその通りですね・・・。

PSY・S 「遠い空」

PSY・Sの音楽活動は1980年代中頃から約10年間で、バンドサウンドを基本にしたポップソングを作ってきましたが、ユニークな音楽の制作手法にも注目されていました。

ひとつはサウンドの制作方法で、Fairlightに代表されるサンプリングを活用して、それをギミック的に使うだけではなく、サンプリング音源を使ってバンドサウンドを構築していった点が挙げられます(さすがにギターは生ですが)。

昔読んだ雑誌の記事(の記憶)によれば、特に打ち込みで使用するドラムとストリングスの音色にこだわりが強かったようです。今でこそドラム音源やストリングス音源はリアルなライブラリがあって、どんなバンドでもゴージャスなストリングスを簡単にアレンジの中に組み込むことができますが、PSY・S松浦雅也さんはそういう現在のサウンド制作の先駆者だと思います。

もう1点はレコーディングの手法で、こちらも様々な実験をしていました。

1989年のアルバム Atlas では、一旦ライン録音した演奏をレスリースピーカーを通して鳴らして、その音を録音するという方法を取ったり、1990年のアルバム Signal では、アナログレコーディングした音源を一旦アナログレコードの原盤に記録して、それを再生した音をデジタルに変換してCDにしたり、さらに1991年のアルバム Holiday では、メンバーが自宅録音した演奏の音源を使用して曲を作ったりと、当時誰もやらないようなことを実行していて、The Bugglesのアルバムタイトルではありませんが「モダンレコーディングの冒険」を実際にやってきたというのは、それが成功したか失敗したかは別にして価値あることだったんじゃないかと考えています。

 

えーっと、前置きが長くなってすみません。

アルバム Atlas には一般に名曲として認知されている「Wondering up and down ~水のマージナル~」 が収録されていますが、個人的に一押しなのがこの「遠い空」です。

PSY・S / Atlas

このレスリースピーカーを通して録音されたオルガンやシンセ、エレピなどが作り出す背景音の浮遊感がスッゴイ気持ちいいです。特に間奏部分。そして、それら演奏をバックにくっきりと浮かび上がるCHAKAさんのメリハリのあるヴォーカルの対比が見事です。

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キーボードソロがある曲(その13):PSY・S 「Friends or Lovers」

1991年のPSY・Sのシングル曲「Friends or Lovers」。ドラマとのタイアップがあったこともあって、PSY・Sのシングルの中では一番売れた曲のようです。個人的には売れる売れないは関係なして彼らの作品をフォローしてたので、セールスに関しては全然気にしてません。この曲はオリジナルアルバムには収録されなかったので、シングル発売の数か月後にリリースされたベスト盤 Two Hearts で音源入手しました。

PSY・S /  Two Hearts

このアルバムの曲名には「New Mix」と記載されていたのですが、当時シングルは持っていなかったのでシングルMixとどう違うかわからないままでした。その後サブスクで彼らのシングル盤のコンピレーションアルバム GOLDEN☆BEST (SINGLES +) でシングルバージョンをようやく聴くことができました。

PSY・S /  GOLDEN☆BEST (SINGLES +) 

両者の大きな違いは、 Two Hearts の方が演奏時間(フェードアウトの時間)が10秒ほど短いという点で、これはおそらく Two Hearts の収録時間がCDの収録可能時間ギリギリという理由で少し時間をカットする必要があったからじゃないかなと思います。その他、楽器の定位が若干いじられているようですが、ざっくり聴く感じではそんなに気になるものではありません。(個人的には分離のよい Two Hearts のバージョンが好きですけどね)

 

肝心のキーボードソロですが、この時期は作曲と楽器担当の松浦雅也さんはアナログシンセにハマっていた時期で、前作アルバムの Signal でもアナログシンセが大々的フィーチャーされていましたが、この曲でのソロ(以下の動画の2分20秒から)もアナログシンセによるものだと思います(具体的に機種は特定できませんが・・・)。バックでぶりぶりいっているシンセベースも気持ちいいです。

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Peter Hammill 「Painting By Numbers」

Peter Hammill は1970年代前半にイギリスのロックバンド Van Der Graaf Generator で活動していたシンガー兼マルチ奏者です。1970年代後半からはシンガーソングライターとしてとして数多くのアルバムを残している「孤高のロック詩人」的なアーティストです。

個人的にはどちらかというと苦手なタイプのアーティストだと思うのですが、一時期 Peter Hammill の作品をよく聴いていた時期がありました。入り口は1986年のアルバム Skin からで、実はこのアルバムは Hammill らしい作品集ではなく、若干ポップ路線に日和った感のある曲が多いのですが、たぶんこのアルバムでなければ Hammill の曲を聴くことはなかったんじゃないかなぁと思います。

Peter Hammill / Skin

 

この曲「Painting By Numbers」は、シングルとしてもリリースされた曲(Wikipediaによるとこれ以降のシングルのリリースは無いらしい)で、Hammillの作品としてはポップに振り切った感のある打ち込みドラムとブラス系のシンセが目立つサウンドの曲です。1980年代の Hammill の作品では 打ち込みやデジタルシンセを使った曲が多いのですが、その初期にあたる曲になるんじゃないでしょうか?

(ただしポップと言っても、歌詞を見ると、芸術と商業主義の関係を批判的に歌っている内容のようで、さすがにこれでは一般受けは難しいような気がします。)

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Hammillは歌のスタイル(特にシャウト系と歌い上げ系)が個性的で、これがネックとなって取っつきにくいところがあるのですが、この曲ではHammillの歌唱の個性をあまり露骨に出していないところも聴きやすい理由かなと思います。。

アルバム全体の雰囲気としても Side 1(トラック1~5)はすんなり聴けると思います。Side 2はちょっと難解かも・・・。

Neil Young & Crazy Horse 「Love and Only Love」

長い曲つながりでこの曲も・・・。

Neil Young & Crazy Horse の「Love and Only Love」。1990年のアルバム Ragged Glory 収録の曲。10分20秒ほどの長さです。

Neil Youngはギターソロを弾きだすと延々と弾いてしまうヒトのようで、この曲もそのタイプの曲のひとつだと思います。特に録音メディアがアナログ盤から収録時間の長いCDに変ってからその傾向が強いですね。

Neil Young & Crazy Horse / Ragged Glory

前作 Freedom で1980年代の迷走から抜け出した Neil Young が、前作の曲の中から歪み系のギターサウンドを抜き出して、アルバム全編を埋め尽くしたような作品で、テクニックではなく職人的な味わいを感じさせるYoungのエレクトリックギターの演奏を目いっぱい堪能できます。Crazy Horseとも息の合った演奏で、ルーズな印象が漂うサウンドがYoungの曲にはやっぱり似合っています。

この曲「Love and Only Love」も序盤から延々と同じテンポ、リズムで10分演奏するわけですが、この歪んだ音のうねりに浸っていると、全くだれることなく最後まで聴き通すことができます。彼のライブレパートリーでも定番の名曲です。

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