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Supertrampアルバム紹介 その5:Even In The Quietest Moments...

Supertrampの5作目のアルバム Even In The Quietest Moments... は、1977年4月にリリースされました。

Supertramp / Even In The Quietest Moments...

Side 1
1. Give A Little Bit
2. Lover Boy
3. Even In The Quietest Moments
4. Downstream
Side 2
1. Babaji
2. From Now On
3. Fool's Overture

 

前作 Crisis? What Crisis? のツアー終了後、バンドメンバーはロサンゼルスへ移住し、アメリカを活動拠点に決めました。おそらく前作でのアメリカでのレコーディングとツアーの反応を見ての判断だったのだと思いますが、このことが後の大ブレイクに繫がっていくことになります。

本作のレコーディングは、メンバーのRoger Hodgsonの提案で人混みから離れたコロラド州カリブー牧場のスタジオで行われました。アルバムジャケットの風景はこのスタジオ近辺の風景らしく、結構な高地でのレコーディングだったため、空気が薄いこともあってヴォーカルや管楽器の録音に難があり、最終的な仕上げはロスに戻って行われたそうです。

アルバムのプロデュースは、前作、前々作のKen Scottから離れ、バンド自身によって行われました。制作環境の変化もあるとは思いますが、本作では以前の作品で感じられた密室感は薄れ、より開放的、というか洗練されたサウンドに仕上がっています。この洗練具合というのがSupertrampのようなポップ感を前面に出すバンドにとっては良い結果をもたらすことになり、アメリカではアルバムチャートでこれまでで最高の16位を獲得(イギリスでは12位)しました。

また、本作では新たにオーバーハイムシンセサイザー(4-Voice)が導入され、その分厚いサウンドはアルバムの一部で聴くことができます。

個人的にもSupertrampのアルバムの中では一番好きな作品です。

 

Give A Little Bit
前作の「Sister Moonshine」のようにRoger Hodgsonのアコースティックギターストロークとヴォーカルから始まるポップで爽やかな曲。曲が進むにつれて徐々に他の楽器が加わっていく構成で、バンドの紹介をしているような雰囲気があります。シングルとしてもリリースされ、ビルボードのシングルチャートで15位まで上昇した Supertrampの代表曲のひとつです。

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Lover Boy
「Lover Boy」とはいわゆる「ナンパ師」のこと。Rick Daviesのピアノとヴォーカルをメインにした3連のリズムを使った跳ねるような雰囲気を持った曲。7分近い長さがありますが、5分前から一気に雰囲気が変わってエイトビートのクライマックスではHodgsonのエレクトリックギターが冴えています。

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Even In The Quietest Moments
Roger Hodgsonらしい哲学的(神秘主義的?)な歌詞で歌われるアルバムタイトル曲。鳥のさえずりとHodgson演奏の12弦ギターから始まるのですが、夢の中の情景を歌っているようなミステリアスな雰囲気を持っています。一聴すると地味な感じですが不思議と昂揚感が得られるナンバーです。

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Downstream
バンドアンサンブルで聴かせるSupertrampの曲の中では珍しいピアノ弾き語りの曲。さらにこのバンドとしては珍しいシンプルなラブソング。Rick Daviesがワンテイクで録音したものだそうですが、流麗なピアノ演奏にDaviesの渋い声が見事にマッチしています。

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Babaji
この曲もHodgsonの神秘主義の傾向が見える曲で、「Babaji」とはヨガの行者であるマハー・アヴァター・ババジのこと。ピアノ弾き語りのイントロから1コーラス目とそれ以降でテンポが若干異なっていて、これが意図的なものかわかりませんが段々早くなるのが印象的です。後半はストリングスセクションが加わってシンフォニックな展開となります。

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From Now On
Rick Daviesの流れるようなピアノ演奏で始まる曲。中盤で雰囲気が切り替わって間奏、そしてリフレインを繰り返すエンディングと続くのですが、ヴォーカルに寄り添って演奏されるJohn Helliwellのサックス演奏が素晴らしいです。

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Fool's Overture
Supertrampのレパートリーの中では3番目に長く11分近い時間で繰り広げられるのは、おそらく最もシンフォニックなナンバー(邦題は「蒼い序曲」)。ポップバンドとして知名度が上がってきた時期にこのような曲を入れてくるのはちょっと意外ですが、プログレバンドとしてスタートした彼らの意地のようなものを感じさせます。アルバムジャケットのピアノに置かれた譜面にもこの曲のタイトルが書かれていることから、バンドのこの曲に懸ける思いが伝わってきます。

最初は静かなピアノ演奏で始まり、シンセがカウンターメロディを奏でた後で急にSEが入り、その後でシンセとストリングスキーボードによる特徴的なメインフレーズに切り替わり、サックスソロに導かれてようやくHodgsonのヴォーカルが始まる(ここまで曲開始から5分間)というドラマチックな場面転換を見せます。ヴォーカルパートが終わると再びSE(風の音と「聖地エルサレム」のクワイヤー)となり、最後はメインフレーズを圧倒的な迫力のアンサンブルで再び繰り返して終わります。Supertrampの名曲の一つといっていいと思います。

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バンドのオフィシャルYouTubeチャンネルで観ることができる「Fool's Overture」の1979年のライブ映像。ステージ向かって左手には、前からエレピ(ウーリッツァー)、グランドピアノ、その後ろに一段上がったところにオルガンとシンセ、右手にはストリングスキーボード(ソリーナ?)、中央にはシンセ(オーバーハイム)が置かれており、DaviesとHodgsonとHelliwellが曲中で場所を移動して演奏しているのが分かります。こういうところがこのバンドのユニークな面と言っていいでしょう。

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