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Mike Oldfield アルバム紹介 その22:Tubular Bells 2003

2003年はMike Oldfieldのデビュー作 Tubular Bells がリリースされてからちょうど30年目という年でした。これを記念して「Tubular Bells のリメイクバージョン」として制作されたのが、このアルバム Tubular Bells 2003 です。

Mike Oldfield / Tubular Bells 2003

Mike Oldfield 自身、1973年に制作された Tubular Bells については、レコーディングスタジオの使用期間が制限されていたこともあり、その音質に以前から不満をもっていました。そのため、Tubular Bellsの再レコーディングについてはかなり前から考えていたらしいのですが、Virgin Recordsとの契約で、25年間は再レコーディングできないことになっていました。 その制約がようやく解除され、30周年となる2003年のリリースを目指してこのリメイク版が構想されたとのこと。

アルバム制作にあたっては、まずオリジナルの Tubular Bells の録音ソースを16トラックの形でMac G4 へ取り込み(DAWとしてProTools を使用)、本来あるべきテンポに整えてからそれをガイドとして新しい録音トラックに差し替えるという作業を行ったそうです。

新しいレコーディングソースはLogic Audio Premium に録音され、ソフトシンセのトラックと共に、Fairlight Merlin という48トラックのハードディスクレコーダーに転送された後、ミックスダウンされたと、本作のDVD-Audio版のブックレットに記載されています。

CDのブックレットには、オリジナルの Tubular Bells 同様、いやそれ以上に使用楽器についてこと細かくリストアップされています。特に本作においてはオリジナルでは生楽器で録音されたパートが、ハードシンセやソフトシンセで代用されているものが結構あり、個々の機材で何の音色を出していたかまでクレジットされているのが興味深いです。

以下はCDブックレットからの抜粋です。


このアルバムは、オリジナルのTubular Bells のPart 1を11トラックに、Part 2を6トラックに分割された形で収録されています。これはOldfield本人が希望したものではなく、レコード会社からの要請に基づいてやむなくこうなったらしいです。そのため各トラックのタイトルもレコーディングする際に参照の為につけた名前がそのまま使用されていて、あまり深い意味はありません。

<トラックリスト>
Part One
  Introduction
  Fast Guitars
  Basses
  Latin
  A Minor Tune
  Blues
  Thrash
  Jazz
  Ghost Bells
  Russian
  Finale

Part Two
  Harmonics
  Peace
  Bagpipe Guitars
  Caveman
  Ambient Guitars
  The Sailor's Hornpipe

 

音の方ですが、オリジナルの完璧な再現を目的として制作されているため、一聴するとオリジナルと変わりないように感じるかもしれません。しかしよく聴くと、30年前のレコーディングでは成しえなかったサウンドがこのアルバムには展開されています。

ひとつはこの30年間でOldfield自身が身につけた演奏テクニックの幅広さや編曲能力の成長であり、もうひとつは録音技術の進歩(特にシンセやエフェクト等のデジタル技術)であったりするわけですが、「広がり感」と「透明感」が強調されているように感じます。この点は、1990年以降でのOldfieldの作風からはある程度予想はできていたことではありますが、Tubular Bells でこのようなサウンドに仕上げることの是非については個人的好みによると思います。

サウンドに関しては結構否定的意見が多いかなという印象ですが、聴きどころである「Finale」 のパートも実にクリアに仕上がっていてすごく聴きやすいです。クライマックスのチューブラーベルが打ち鳴らされる部分とその後の展開を聴いていると、盛り上げ方がスムーズで、Tubular Bells II の「The Bell」でのエンディングのような爽快感をたたえたサウンドになっています。

全般的には、オリジナルに対してエンターテインメント的な部分を加味した「成熟した Tubular Bells」 になっていると言えるのではないかと思います。

ただし、本作の後、2009年にオリジナルの Tubular Bells に音質的な面の改善が施されたリミックス盤がリリースされて、これがデフォルトとなっている現在においては、この Tubular Bells 2003 は「デジタルっぽいTubular Bells」というイメージとなるのは致し方ないですねぇ。オリジナルと並べて聴き比べて微妙な違いをみつける、といった楽しみ方もできますが、これはマニア向けかも・・・w。

 

YouTubeの音源は各トラックで分けてもあまり意味が無いので、プレイリストで貼りました。

www.youtube.com

 

ちなみに、CDのほうにはおまけDVDも同梱されていて、そこにプロモーションビデオが収録されています。Tubular Bellsの冒頭部をダンスミックスとしたバージョンとなっていますが、これが意外と良い出来です。オフィシャル動画はないのですがご参考までに。(音源としては2015年にリリースされたベスト盤に収録されています)

www.youtube.com

 

今年2023年は、Tubular Bells発表50周年となる年で、昨年から本国イギリスでは「Tubular Bells 50th Anniversary Celebration」と題して、ロイヤルフィルハーモニックオーケストラによるコンサートなどが行われていますが、これにはMike Oldfield本人は参加していません。マイクは今年で70歳になるのでライブでの演奏も難しいのかもしれませんが、2017年以降あまりニュースも無いので何か動きを見せてほしいという想いもあるんですよね・・・。