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Mike Oldfield アルバム紹介 その15:Tubular Bells II

Virgin Recordsとの契約が終了し、Mike Oldfieldが新たに契約した Warner Music UKから1992年に発表されたアルバムがこの Tubular Bells II 。まさしく満を持した発表だったんじゃないかと思います。

Mike Oldfield / Tubular Bells II

彼の作品の中で最も有名な作品 Tubular Bells 、その続編ということで本国イギリスでは好意的に迎えられ、インストアルバムでは異例のアルバムチャートNo.1を獲得しました。

曲の内容に入る前に、Oldfield周辺の変化についてちょっとだけ挙げておくと、

  1. マネージメント業務をプロの会社(Clive Banks Ltd.)に委託したこと
  2. 自己の作品(の著作権?)を管理する会社、Oldfield Music Ltd.を設立したこと
  3. 1985年以来のパートナーであったAnita Hegerlandと別れたこと

などがあったようです。(3)はさておいて、(1)(2)はVirgin Records所属時代の活動で痛い思いをしたことがあって、これからは変ないざこざに翻弄されず音楽に専念したいという気持ちの表れだったんだろうなと推察しています。

このアルバムは、Trevor HornMike Oldfield、Tom Newmanの3人による共同プロデュースとなっています。制作の流れとしては、まず初期段階では、イギリスにあるOldfieldの自宅スタジオでNewmanとともにアルバムの前半部分のレコーディングを行い、次に自宅スタジオの機材をアメリカのビバリーヒルズに借りた家へ輸送して、そこで合流したHornに前半部分のレコーディングテープを渡してサウンドの調整をHornへ委託。その間にOldfieldとNewmanで後半部分の録音を開始し、それが終了すると同様にHornへテープを渡して作業をしてもらうという流れだったようです。

Trevor Hornの仕事は、録音された音源をデジタル編集したり、追加のサウンドをオーバーダビングしたり、Oldfieldに対して音作りの見直しをアドバイスしたりという作業だったようで、最初に作られたフレーズがどうしても原曲Tubular Bells(以下TB1)に寄ってしまうところを、より洗練されたフレーズへと調整するという役割だったようです。

アルバムのクレジットを見ると、Oldfield以外の演奏者は、Trevor Hornとのつながりがあったミュージシャンが多いので、Hornによる編集で改変された部分も多かったように思われます。

結果、この作品 Tubular Bells II(以下TB2)はTB1に比べて、よりクリーンでポジティヴなサウンドに仕上がりました。

 

<トラックリスト>
 1. Sentinel
 2. Dark Star
 3. Clear Light
 4. Blue Saloon
 5. Sunjammer
 6. Red Dawn
 7. The Bell
 8. Weightless
 9. The Great Plain
 10. Sunset Door
 11. Tatto
 12. Altered State
 13. Maya Gold
 14. Moonshine

トラックは14に分割されていますがシームレスで繋がっており、Tr.1~7がTB1のPart 1、Tr. 8~14がPart 2に相当する構成です。

このアルバム、全般的には、TB1の各パートのイメージと流れを引き継ぎつつも、別のメロディ、サウンドに置き換えた構成になっていて、仮に「Tubular Bells」という音楽様式があったとしたら、その様式に従って作曲された音楽ということができるのかなと思います。

正直なところ、1990年のアルバム AmarokOmmadawnの続編と呼べる作品で、Ommadawnの音楽的要素を取り入れたうえで、新たな音楽要素と構成で制作されていたので、TB2も同様の作りなのかなと思っていましたが、TB2TB1の様式にきれいに従った作品だったことは予想外でした。

 

Tr. 1-Tr. 7

「Sentinel」の冒頭、ピアノによる短いテーマが奏でられます。実はこれが TB2 の主題となっていて、アルバムのところどころに顔をだすフレーズです。そのあと、世界中で有名となったTB1のあのピアノシーケンスのパートが始まりますが、メロディが変更され、変拍子でもなくなって実に爽やかなフレーズに変貌しています。

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シングルとして発表された Sentinel に「Early Stages」という曲が収録されているのですが、これがTB2のピアノシーケンスの初期バージョンだったとのこと。これを聴くと初期は明らかにTB1サウンドに近いものになっていて、最終形に至る過程で果たしたTrevor Hornの功績が大きかったことが良く分かります。

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ヴォイス、ヴォーカルが多く挿入されていることもTB2の特徴といえると思います。ヴォーカルとしてクレジットされているSusannah MelvoinとEdie Lehmanは米英のアーティストのバックヴォーカリスト、ヴォーカルソロのSally Bradshawは、イギリスのソプラノ歌手ですがHornが主宰するArt of Noiseとも共演したこともあるようで、Trevor Hornのアイディアではないかと思われます。

 

続く「Dark Star」もTB1では使用されなかったエレクトロニックなパーカッションでビート感をサポートしています。

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「Clear Light」では再びメインテーマが演奏され、例のピアノシーケンスのヴァリエーションにつながります。

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「Blue Saloon」は、TB1でもあったブルース進行のメロディーのパート。Oldfieldのクリーンなエレクトリックギターが美しいです。

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「Sunjammer」は一転、ディストーションを効かせたギターによるパート。後半ブラス系のシンセが入ってシンフォニック調になります。

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さらに一転してアコースティックギターソロとソプラノヴォーカルが印象的な「Red Dawn」

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「The Bell」。ここはTB1でも有名な、楽器名がコールされて繰返しのフレーズに楽器が加わっていくパート。ここでもTB1には無いパーカッションが加えられてリズミックなパートになっています。

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ここでコールされている楽器名は以下の通りです。

Grand Piano
Reed and Pipe Organ
Grockenspiel
Bass Guitar
Vocal Choirs
Too Slightly Sampled Electric Guitar
The Venetian Effects
Digital Sound Processor
and .... Tubular Bells 

ちなみにTB1では以下の楽器でした。
Grand Piano

Reed and Pipe Organ
Grockenspiel
Bass Guitar
Double Speed Guitar
Too Slightly Destorted Guitars
Mandolin
Spanish Guitar and Introducing Acoustic Guitar
plus .... Tubular Bells

"Sampled Electric Guitar"と"Digital Sound Processor"を入れているのは、時代を意識したというのをアピールしたかったんでしょう。

楽器紹介の最後はTB1と同様にチューブラーベルが鳴り響きますが、ここでのチューブラベルはデジタル加工を施されていて、元々の音色にメジャーキーの倍音が追加されているそうで、非常に華やかな聴感となっています。

「The Bell」の最後は、「Sentinel」の終盤でも聴けたフレーズを高らかに演奏して一旦のクライマックスを迎えます。

 

Tr. 8-Tr. 14

TB1でいうとPart 2にあたる部分になりますが、最初は落ち着いた雰囲気の曲「Weightless」から始まります。女性ヴォーカルのスキャットが浮遊感を醸す出すパートです。

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続く「The Great Plain」は3拍子のケルティックな雰囲気のメロディから始まり、四つ打ちのバスドラに乗せた演奏、そしてアコースティックギターアルペジオと様々なサウンド展開を見せるパートです。

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再び3拍子に戻り、マンドリンとベースギター、そしてヴォーカルがフィーチャーされた曲「Sunset Door」

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「Tatto」は、TB1ではバグパイプ風のギターで表現した部分ですが、TB2では本物のバグパイプ隊をフィーチャーしています。演奏しているのは P.D. Scots Pipe Band というロサンゼルス警察に所属するバンドだそうです。堂々としたバグパイプ隊の演奏は聴いていて気持ちいいですね。後半はOldfieldのバグパイプ風のギターがユニゾンで参加しています。ここはTB2後半のクライマックスと言えると思います。

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続いて、TB1では"Caveman"と呼ばれる8ビートのドラムに乗せた演奏がフィーチャーされた「Altered State」。TB1同様男性のシャウトが登場しますが、TB2では女性ヴォーカルとの掛け合いとなっていて、コミカルな仕上がりとなっています。

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「Maya Gold」はTB1同様、ギターとベースとオルガンによる静かなパート。個人的にはとても好きな曲です。最後の1分間は、ヴォーカルとギターでTB2冒頭のメインテーマをなぞります。TB2ではOldfieldも各所で歌っており、ここでもOldfieldのヴォーカルを聴くことができます。前作Heaven's Openでリードヴォーカルを取った経験が役立っているのかも・・・。

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最後はTB1の「Sailor's Hornpipe」と同じく、トラッド風のダンスチューン「Moonshine」で締めくくります。ここではブルーグラス風のサウンドとなっています。Oldfieldはバンジョーを演奏しています。

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ちょっと長くなりました。

全般的なことをいうと、TB2のほうがTB1と比べて、展開やサウンドもよく練られていて完成度が高く、抜群に聴きやすい作品といえると思います。一方でTB1の魅力の一部として、当時20歳前後の若者が、ダビングを繰り返して作品を作り上げていったその熱量というところにあるのは確かで、その点はTB2に不足している部分だと思います。

なので、気軽に聴きたいときはTB2、じっくりOldfieldの世界にハマりたいときはTB1という選択になるのかなと思います。個人的には、実はTB2を聴いた回数のほうが多いですね・・・。

 

オマケですが、本作リリース直後の1992年9月4日にイギリス エジンバラ城にて、TB2を完全再現したプレミアライブが実施され、これは映像作品としてリリースされました。このビデオでは、Oldfieldが実に楽しそうに演奏している姿をみることができます。