1980年代初期、Mike Oldfieldはヨーロッパ各地でコンサートを精力的に実施していましたが、アルバム QE2 発表後に行われた「Europian Adventure」ツアーでは、以前より参加ミュージシャンを減らして、コンパクトなバンドスタイルでのコンサートを行っていました。そしてこのバンド<Mike Oldfield Group>によって制作されたアルバムが、Five Miles Out です。
Mike Oldfield / Five Miles Out
Taurus II
Family Man
Orabidoo
Mount Teidi
Five Miles Out
Mike Oldfield Group is;
- Mike Oldfield: Guitars, Bass, Keyboards, Vocals
- Maggie Reilly: Vocals
- Rick Fenn: Guitars
- Tim Cross: Keyboards
- Morris Pert: Percussion, Keyboards
- Mike Frye: Percussion
アルバムは、まずタイトルトラックの「Five Miles Out」から制作され、この曲のアイディアを発展させた形で、1曲目の大作「Taurus II」が制作されたようです。
この25分に及ぶ「Taurus II」は、フォークミュージックをベースとした初期の作品とは風合いは異なりますが、傑作と言っていい作品になっていると思います。ロックのフォーマットを基盤としながらも、イーリアンパイプ(バグパイプの一種)などの演奏によるケルティックな要素や、ヴォコーダーやシンセシーケンス等のエレクトロニックな要素、そしてクラシカルな要素を効果的に配して織り上げられたロックシンフォニーとなっていて、骨太でパワフルだけどカラフルな音楽です。
アナログ盤は見開きジャケットとなっていて、内側にはOldfield手書きの24chのトラックシートが掲載されていて、これを見ながら曲の展開を追っていくことができました。(残念ながらCDでは再現されていないようです。)
このトラックシートで、"MAG"と書かれたパートは、Maggie Reillyのヴォーカルパートになっていて、8分30秒付近から約1分半にわたってソロの歌唱を聴くことができます。(「The Deep Deep Sound」と名付けられた歌詞が掲載されています。)
また、6分15秒ころから始まるイーリアンパイプの演奏はアイリッシュフォークグループ ChieftainsのPaddy Moloneyによるもので、トラックシートには"MOLONY"と記載されています。Moloneyはアルバム Ommadawnでもイーリアンパイプの演奏を披露していました。
その他、アルバムジャケットには記載されていませんが、OldfieldはこのアルバムからFairlight CMIを使用しているようで、このトラックシートにもFairlightの音色ライブラリの名称である"LOSTRE"、"SWANEE"、"Whisp"などの名前をみることができます。
2曲目(アナログ盤ではSide 2の1曲目)「Family Man」は、Maggie Reillyをリードヴォーカルとしたポップソングで、同じ年にアメリカのDaryl Hall & John Oatesによるカバーバージョンがヒットしました。ちなみにこの曲はバンドメンバーの共作となっていて、Rick Fennがギターリフを書き、Oldfieldはサビの部分、Maggie ReillyとTim Crossがサビ以外の部分を手掛けたらしいです。共作であるとはいえ、Oldfieldがポップソングの分野でヒット曲を書ける実力を示した曲だといえるでしょう。
次の曲「Orabidoo」は13分ある長い曲で、Taurus IIとは異なりアコースティックなムードが濃い曲となっています。中間部はヴォコーダーとReillyのヴォーカルをフィーチャーしたパートになっていて、それぞれをいくつかのトラックに分割して、定位を変えたミックスを行っているのが実験的です。10分50秒過ぎからはOldfieldのアコースティックギターにのせてReillyの美しい「Ireland's Eye」という歌で締めくくります。この曲もバンドメンバーによる共作になっています。
続く「Mout Teidi」はEmerson, Lake & PalmerのCarl Palmerのパーカッションでのゲスト参加で聴かせるインスト曲。テイデ山はモロッコの西に位置するカナリア諸島にある火山の名前で、Palmerの演奏する手数の多いドラムロールが火山の噴火をイメージさせます。
最後の曲「Five Miles Out」は、アルバムのリリースに先駆けてシングルとして発表された曲で、これもヴォーカル入りのポップソングなのですが、「Orabidoo」同様ヴォーカルの処理が特殊です。ヴォーカルはReillyに加え、Oldfield自身も歌っており、さらにヴォコーダーのパートとを切り絵のように組み合わす形で構成されており、普通のポップソングとはちょっと違うアプローチになっています。パワフルなギター演奏もカッコイイです。ちなみにこの曲のイントロ部でちらっと聴こえるシンセストリングスによるメロディは、Oldfieldのデビュー作 Tubular Bells の導入部のあのメロディです。
ちなみにこのアルバムは、当時Oldfieldが所有していたDenhamにあるスタジオで録音されたとのことで、次作 Crises でも同じスタジオで録音されています。アルバムジャケットの内側には、スタジオの一室でOldfieldが多くの楽器と模型飛行機たちとともにいるスナップ写真が収められています。
(向かって左側のモニターが乗っている楽器がFairlight CMIですね)