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Mike Oldfield アルバム紹介 その12:Earth Moving

前作アルバム Islandsアメリカでも販売されて、それなりの結果を得たVirgin Recordsとしては、ヴォーカル中心のアルバム制作をMike Oldfieldに要請したと思われます。Oldfield自身はたぶん乗り気ではなかったんだと思いますが、Virgin側がおだてたのか脅したのか知りませんが、Oldfieldに何とかヴォーカル中心のアルバムを制作するように仕向けてできた(と思われる)アルバムがこの Earth Moving です(1989年作)。

Mike Oldfield / Earth Moving
1. Holy
2. Hostage
3. Far Country
4. Innocent
5. Runaway Son
6. See The Light
7. Earth Moving
8. Blue Night
9. Nothing But / Bridge To Paradise

スリーブデザインには、Pink Floydのアルバムで有名な Storm Thorgerson(Hipgnosis)とYesのロゴを作ったRoger Deanが関わっており、レコード会社の力の入れようが窺われます。

アルバムのライナーノーツを見ると、Atari 1040STというコンピュータで、C-LAB社のNotatorというシーケンスソフトを走らせて制作したことが明記されていて、つまり全編「打ち込み」で作った作品ということになります。プレイヤーのリストにもドラム奏者がクレジットされていないので、少なくともドラムは打ち込みになっていると言えます。

アルバムのプロデュースは、Oldfieldとアメリカ人のミュージシャン兼エンジニアのDaniel Lazerusとの共同によるもの。Lazerusを紹介したのもヒット作を狙うVirgin Recordsの仕業かもしれませんが、見方によっては、本作のようなコンテンポラリーなポップソングはOldfield一人で仕上げるのは難しく、ヴォーカリスト選びや流行りのサウンドの導入などでLazerusが果たした貢献は大きかったように思います。

このアルバムに収録された曲は全曲ヴォーカル入りで、リードヴォーカルを担当するシンガーが8人もいるというカラフルさ。曲調も従来のOldfieldが作るフォークロックやユーロポップ調とはちょっと違うソウルフルなものも含まれています。

 

「Holy」
Lead Vocal: Adrian Belew

1980年代のKing Crimsonでギター、ヴォーカルを担当したAdrian Belewが歌うとびきり明るい曲。イギリスのセッションシンガー Carol Kenyonのバッキングヴォーカルが早速ソウルフルな味わいを出しています。

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「Hostage」
Lead Vocal: Max Bacon

前作 Islands のUS版で「Magic Touch」を歌ったMax Baconがヴォーカルを取る曲。派手めのディストーションギターの演奏が印象的です。この曲でも後半部でイギリスのソウルシンガー Nikki ”B" Bentleyがバックヴォーカルで参加しています。

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「Far Country」
Lead Vocal: Mark Williamson

この曲はOldfieldとAnita Hegerlandの間に生まれた娘 Greta の誕生にインスパイアされた曲とのこと。間奏部ではOldfieldとAdrian Belewがそれぞれギターソロを披露しています(右チャンネルがOldfield、左チャンネルがBelew)。

ちなみにヴォーカルのMark Williamsonはイギリス出身のシンガーでAOR風のソロアルバムも発表しているようですが詳細不明です。

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「Innocent」
Lead Vocal: Anita Hegerland

当時のOldfieldのパートナーAnita Hegerlandが歌うこの曲は、同じく娘 Gretaに向けた曲のようです。前作でもHegerlandが歌う曲は、サポートミュージシャンを入れずOldfield一人で作り上げていたようですが、この曲も同様。そのせいかユーロポップ色が強いです。

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「Runaway Son」
Lead Vocal: Chris Thompson

なんとこの曲ではホーンセクションまで登場。この辺りはDaniel Lazerusの手腕なのかも知れません。Oldfieldのギターはほとんど目立つことが無いので、予備知識無く聴くとOldfieldの作品とは思わないでしょう。

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「See The Light」
Lead Vocal: Chris Thompson

アナログ盤ではここからSide 2なのですが、前曲と同じメンバーによる曲です。ただこちらのほうがOldfieldのギターがフィーチャーされています。元Manfred Mann's Earth BandのヴォーカルだったChris Thompsonの歌唱は、「Shadow On The Wall」でのRoger Chapmanのヴォーカルを彷彿とさせます。

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「Earth Moving」
Lead Vocal: Nikki ”B" Bentley

Nikki ”B" Bentleyが歌うこの曲は、アルバム中一番ソウル色が強いです。ヴィデオクリップも制作されましたが、Oldfieldは登場せず、ヴォーカリストのBentleyとサックスソロを担当したRaf Ravenscroftしか出てこないので、「誰の曲やねん」といった風のヴィデオになっています。

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この曲、シングル「Innocent」のカップリングとして収録された"Club Version"というのが存在していて、ここではMax Baconがヴォーカルを担当したロック色の強いアレンジとなっています。個人的にはこっちのほうが好きですね。

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「Blue Night」
Lead Vocal: Maggie Reilly

「Moonlight Shadow」や「To France」というOldfieldの代表曲のヴォーカルを担当したMaggie Reillyが歌うこの曲は、アルバム中最も爽やかな1曲。間奏のOldfieldのアコースティックギターのソロも美しいです。

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「Nothing But」
Lead Vocal: Carol Kenyon

「Bridge To Paradise」
Lead Vocal: Max Bacon

トラックとしては1曲なのですが、実はメロディやアレンジなども関連なさそうな独立した2曲がきっちり曲間も空けて収録されているという変な2曲。これにはいろんな説があるようですが、個人的にはOldfieldによるVirgin Recordsへのいたずらではないかと思います。Virginからは「ヴォーカル中心のアルバムを作ってくれ。1曲だけは長いインストがあってもいいから」といった依頼を受けて、ひねくれ者のOldfieldは、「そんなこというなら全曲ヴォーカル入りにしてやる。長い曲に見せかけて1トラックに2曲入れてやれ」みたいなことを考えたんじゃないかと想像しています。

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このアルバム制作を通じてOldfieldは、コンピューターによる音楽制作には嫌気が差し、インタビューなどでは「コンピューターによる音楽は、魂の抜けた、音楽とは呼べないものだ」みたいなことを言っているように、人の手による音楽制作を指向するようになります。

この頃、Virgin Recordsからは Tubular Bells の続編を作ることを要求されていたらしく、Oldfieldとしても Tubular Bells II の制作には前向きだったようです。一方で、このアルバム完成時点で、Virgin Recordsの下であと2枚アルバム制作しなければならない契約となっていたようで、Virginとの関係が悪化していたOldfieldは、VirginからはTubular Bells IIは出したくないと考えていたと思われ、Virginでの残る2作で奇抜な作品を作ることとなります。