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Mike Oldfield アルバム紹介 その14:Heaven's Open

1970年代の制作手法に立ち返って制作された渾身の大作 Amarok を発表した後、Virgin Recordsとの契約であと一作アルバムを制作する必要があった Mike Oldfield は、前作からわずか8か月でこのアルバムをリリースしました。

Michael Oldfield / Heaven's Open

Make Make
No Dream
Mr. Shame
Gimme Back
Heaven's Open
Music From The Balcony

 

このアルバムは、Oldfieldがこれまでにレコード会社から要求されていたと思われる以下のような作品仕様を反映したものとなっています。

Crises のようなバンドスタイルの演奏
Islands のような大作1曲と歌モノ数曲といった構成
Earth Moving のようなコンピューター(打ち込み)主体の楽曲

つまり、Virgin Recordsへの置き土産として、このようなアルバムを作ったのだと推察します。ただし、歌は全曲Oldfield自身が歌い、アーティスト名も"Michael Oldfied"という名義でというオプション付ですが・・・。また、歌の内容に関しても最初の4曲はVirgin Recordsへの当てつけ・悪意のようなものが感じられます。

アルバム全体の雰囲気としては、デジタル楽器を多用した荒涼としたサウンドとなっていて(Oldfieldのヴォーカルのせいもあるとは思いますが)、従来のOldfieldのファンすら戸惑うような作品となっています。それでも、曲自体が手抜きというわけではなく一定の水準には仕上がっていると思います。特に、過去には共同プロデュースまで手掛けたことのある盟友Simon Phillipsの手数の多いドラミングは素晴らしいです。また、Oldfield自身の歌唱についてもヴォーカルトレーナーの指導を受けたそうです。

"The Band"としてクレジットされているのは以下のメンバーです。
   Simon Phillips: Drums
   Dave Levy: Bass
   Mickey Simmonds: Hammond, Piano
   Michael Oldfield: Vocals, Guitars, Keyboards
   Andy Longhurst: Additional Keyboards
   Courtney Pine: Saxophones, Bass Clarinet

 

「Make Make」

「我々は搾取し、稼いでいく。ニセモノでも構わない。慈善や慈悲なんてない。もう昔のVirginじゃないんだよ」と歌う歌詞がえげつない曲です。

この曲では、Oldfield自身のヴォーカル以外にNikki ”B" Bentley(Earth Movingでも参加)によるヴォーカルと"Sassy Choir(生意気コーラス?)"と名付けられた女性コーラスがサポートしています。

この曲に限らず、このアルバムの前半5曲では、ソウルフルな女性ヴォーカル/コーラスがフィーチャーされているのですが、たぶんOldfieldだけのヴォーカルだけでは、面白くない曲になっていたんじゃないかと想像されるので、これらサポートコーラスのこのアルバムへの貢献度は意外と高いと思っています。

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「No Dream」

歌詞の中に過去の自身の楽曲名"shadows on the wall"や"the time has come"を織り込んで孤独を歌った歌。後半部にはOldfieldらしい音色のむせび泣くようなギターソロが聴けます。

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「Mr. Shame」

Mr. ShameとはおそらくOldfield自身のこと。「お前はあのMoney Bug(カネの亡者みたいな意味だと思う)の犠牲者なのかい?」「躊躇せずに川を下るんだ」と語りかけています。

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「Gimme Back」

Oldfieldとしては初めてのレゲエのリズムの曲。Micky Simmons演奏によるハモンドオルガンが活躍しています。

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「Heaven's Open」

このアルバムの歌モノの中で唯一、前向きな歌詞を持つ佳曲。美しいメロディのピアノに導かれてOldfieldのギターが入るイントロ部はめっちゃかっこいいです。後半のOldfieldらしい独特な音色のギターソロも溌剌として聴こえます。歌の最後は以下のような歌詞で、Virgin Recordsから解放されるOldfieldの気持ちを象徴しています。

Waiting the whole night-time
Sun comes in
All through the night-time
Let the blue sky in

Heaven's  Open
Sun comes in
Heaven's Open
Let the blue sky in

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「Music From The Balcony」

アルバム前半、タイトルトラックで華やかに締めくくった後の約20分のインストルメンタルナンバーですが、かなり異色な作品です。基本的にはサンプリングされたエスニックなSE、フレーズを貼り付けていったような音作りで、きれいなメロディーが現れても長続きせず、音量変化も激しく意表をつくような展開が繰り返されます。本作でバンドメンバーとしてクレジットされているジャズ分野で活躍するCortney Pineのフリーフォームなサックス演奏が新鮮で印象的ではありますが。

まあ、そういった意味ではAmarokと似ていると言えなくもないのですが、どちらかというと、デジタル機材を使った実験という風にも見えます。アルバムのクレジットには初期のハードディスクレコーダーであるSteinberg社のTopazの名前も入っており、ハードディスクレコーディングの実験も行われていたのかも知れません。

まあそんな曲ではありますが、個人的には結構好き、ということを付け加えておきます。

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ちなみに、Wikipediaによるとこの曲の一番最後にOldfiedが「f**k off」と言っていると書いていましたが、これには今まで気づきませんでした。改めて聴くと、確かに右CHで小声で言ってるような・・・。