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Supertrampアルバム紹介 その8:Brother Where You Bound

Supertrampの全盛期をRick Daviesとともに支えたRoger Hodgsonがバンドを脱退したのが1983年、アルバム ... Famous Last Words ... のワールドツアー終了後のことでした。もう一人のメインライターであったRick Daviesを含む残されたメンバー4人は、追加メンバーを補充せずバンドを継続させることとしました。

新作を制作するうえでキーとなったのは、アルバムのタイトルトラックとなった「 Brother Where You Bound」という曲。Davies作のこの曲は、バンドの前作... Famous Last Words ... の収録曲候補として検討されていたものらしいですが、あまりにシリアスな内容だったため見送られていました。当初デモ段階では10分程度の(それでも長いですが)曲をさらに発展させ、16分半にも及ぶ大作として仕上げられて、アルバムB面の大部分を占めるこの曲は、文字通り新作アルバム Brother Where You Bound (邦題:フロンティアへの旅立ち)の核となるものでした。

アルバムの共同プロデューサーとして招いたのは David Kershenbaum 。この人は当時A&M Records と契約していたプロデューサーで、1982年に ジョー・ジャクソンのヒットアルバム Night and Day をプロデュースしたことでも知られています。Kershenbaumが起用された経緯はよく分かりませんが、バンドがというよりもレコード会社の意向が強かったのではないかと思われます。

レコーディングには当時人気のあったシンセサイザーだった フェアライトCMI、シンクラヴィア、PPG Waveなどが使用され、よりモダンなサウンド指向をもったアルバムに仕上がっています。ギターパートはセッションミュージシャンの Marty Walshが多くの部分を担当していますが、タイトルトラックでは、Thin LizzyのScott Gorham と Pink FloydDavid Gilmourがゲスト参加しています。

Side 1
1. Cannonball
2. Still In Love
3. No Inbetween
4. Better Days
Side 2
1. Brother Where You Bound
2. Ever Open Door

 

Cannonball
冒頭から7分半もの長尺の曲。過去のSupertrampの作風とはちょっと違うダンサブルなビートがフィーチャ―され、シングルバージョンもリリースされました。ブラスセクションによるキメなど、カッコいいフレーズが含めれる佳作。Daviesのコメントよればこの曲は終始「Gマイナー」のコードで演奏されているのだそうで、ある意味実験的な曲ともいえそうです。

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この原始人が出てくるヴィデオクリップも結構話題になりました。

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Still In Love
この曲は過去からのSupertrampのイメージに沿ったポップソング。コーラス部の高音パートとの掛け合いなどは、Daviesらしい作風に思えます。

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No Inbetween
Davies のピアノ弾き語りを基本として、控えめにバッキングがサポートする形のやや陰鬱なイメージのある曲。エンディングは次の曲にクロスフェードしていきます。

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Better Days
この曲は、1984年のアメリカ大統領選挙での候補者の発言にインスパイアされたDaviesが政治家たちへの批判めいたメッセージを込めた曲。後半、John A. Helliwell のサックスソロの背後で政治家の演説を模したSEを挿入されています。

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この曲はシングルカットされヴィデオクリップの制作されました。

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Brother Where You Bound
本作がリリースされた1985年という時代を考えたとき、15分を超える曲をアルバムに収録するメジャーなアーティストは皆無だったように思います。そういう意味では「異色作」なのですが、新生Supertrampとしてスタートを切ったRick Daviesの意欲が強く示された曲であるとも言えます。

過去、バンドは「Fools Overture」というRoger Hodgson作の11分超えの曲を制作しましたが、そこで提示された世界の危機感を、本作では Daviesが、当時の世界情勢であった東西冷戦を背景に、より現実的なテーマとして作品に仕上げたという印象があり、かなりシリアスな1曲になっています。

16分半にわたる曲は、前半のヴォーカルパートと後半のインストパートに大きく分けることができます。長い曲ですが冗長な繰り返しなどは無く、ほどよい時間で曲が展開していく構成はさすがです。エンディングではDavid Gilmourのエモーショナルなギターソロを聴くことができます。

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ちなみにこの曲の制作に合わせて、17分ほどのショートムービーも制作されたのですが、こちらは費用を掛けて制作したわりには正直あんまりおもしろくありません・・・。

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Ever Open Door
アルバム最後を締めくくるのは、Daviesのピアノ弾き語りによる小品。美しいメロディをもつバラードですが、本人のコメントによれば作られたのはかなり昔のものとのこと。後半シンセで色付けされていますが、単純にピアノオンリーでもよかったような気がします。

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全般的な印象としては、Rick Davies の曲だけになったアルバムではありますが、過去のSupertrampの作品では聴くことが無かったような曲もあって、Daviesの作曲能力の懐の深さを感じることができるように思います。ただ一方でRoger Hodgsonが抜けた穴というのはやはり大きく、Hodgsonが書く曲のポップでファンタジックでかつスピリチュアルな側面が無いことで、過去の作品に比べると一般への受けはいまひとつだったようです。