当時、Genesisのアルバムでも共同プロデュースを手掛けていたDavid Hentschelを共同プロデューサー/エンジニアに迎えて制作された1980年発表のアルバム QE2 では、前作 Platnium から始まったポップミュージックへの接近がさらに顕著になってきました。前作のようなディスコミュージックやジャズへのアプローチは無くなりましたが、参加ミュージシャンを一新し、より積極的に外部のミュージシャンとの共同作業を行おうとする姿勢が見受けられます。
本作で見えてきた音楽的変化をいくつか挙げてみます。
収録されたどの曲もドラムやパーカッションが強調され、Oldfieldのギター演奏を除けば、初期の繊細なサウンドとはかなり離れてきた印象です。
Mike Oldfield / QE2
- Taurus 1
- Sheba
- Conflict
- Arrival
- Wondeful Land
- Mirage
- QE2
- Celt
- Molly
「Taurus 1」はアルバム中最も長い10分強の曲で、次作、次々作で同名のタイトルの連作が作られることになります。この時点で「1」としているということは最初からそういう構想だったのでしょう。「Taurus」は「牡牛座」という意味で、Oldfieldの誕生日が5月15日の牡牛座ということからつけられたタイトルのようです。
曲は、次作で大作として発表される「Taurus 2」のプロトタイプのような曲で、大きく4つのパートに分かれています。冒頭からドラムマシンが使用され、8分30秒頃からの最後のパートではヴォコーダーをフィーチャーしている点で新しいサウンドの方向性を示していますが、一方でマンドリンやバンジョーの音も入っていたりと、結構聴きごたえはあると思います。ただフェードアウトで終ってしまうのでその点がちょっと残念。
続く「Sheba」ではヴォコーダーとともにMaggie Reillyの歌唱が登場します(「Taurus 1」でも一瞬コーラスが入っていますが・・・)。Maggie Reillyはこの後数作で、Oldfield作品のヴォーカル担当として重要な役割を果しますが、本作では意味のある歌詞ではないヴォーカルにとどまっています。
「Conflict」はアップテンポのアフリカンドラムをバックにOldfieldのギターが冴える小品。
「Arrival」はABBAの1976年のアルバム Arrival (世界的な大ヒット曲「Dancing Queenを収録)のタイトル曲のカバー。オリジナルのABBAのバージョンもインストで、イーリアンパイプをフィーチャーしたケルティックでMike Oldfield風でもある曲なので、あまり違和感なく聴けます。
「Wondeful Land」はイギリスのエレキギターのインストバンドShadowsが1962年に放ったNo.1ヒット曲(だそうです)のカバー曲。Oldfieldのバージョンは若干テンポを落とした演奏になっていますが、こちらもオリジナルがギターでメロディーを奏でるインスト曲なので違和感は少ないですね。
これらカバー曲2曲はどちらもシングルとして発表されており、一般のリスナーへのアピールが目的だったのではと思いますが、あっと驚くようなアレンジがなされているわけではなく、Oldfieldのアルバムに入れる必然性はあまり感じないですね。
「Mirage」と「QE2」はどちらもDavid Hentschelアレンジのホーンセクションをフィーチャーした曲です。アルバムタイトル曲である「QE2」は、旅客船 クイーンエリザベス二世号をモチーフとした曲で、マーチのリズムで船出をイメージさせるサウンドとなっています。悪くはないですが、こちらもOldfieldの個性がイマイチ伝わってこない気がします。
でも続く「Celt」は個人的に好きな曲です。全編を通して流れるアフリカンドラムをバックにMaggie ReillyのヴォーカルとOldfiledのギターソロが3分間の中に凝縮された曲になっていて、聴いていると結構熱くなれます。
最後の「Molly」はOldfieldの娘 Mollyをテーマにしたエレクトリックギターとヴォコーダーで演奏される小品になっています。
というわけでちょっと辛口コメントが多くなりましたが、本作は、従来のサウンドから大きく舵を切った作品になっていて、よりコンテンポラリーなポップミュージックを指向するこれ以降の作品の原点という意味では重要な作品ともいえると思います。
YouTubeのオフィシャル音源はなぜかこれだけシングルバージョンです。
おまけ。こちらはABBAの「Arrival」
Shadowsの「Wondeful Land」